闇の女神の信者達の村についての話 ⑩
「グランシティダ様はね、ノースティア様と実際にお会いしたこともあるというの。それだけでも尊敬してならないわよね。ノースティア様のお美しいご尊顔を拝見することが出来るなんてっ。私も一度でいいから……この命が失われる前には叶えたいものだわ」
「そうなんですね。それでそのグランシティダという方が神託を受けたというのは?」
「夢でお会いしたそうよ。ノースティア様の復活が間近かもしれないなんて……それを思うだけで本当に楽しみだわ」
にこにこした顔でそう言われたものの、絶対に母さんじゃないというのが俺の感想。だって母さんがさ、父さんと二人っきりで居られることが嬉しくて仕方がない状況で他の男にわざわざ会いに行くとかありえなさすぎる。そんな暇があったら父さんにひっついているだろう。
俺にはそれが分かるので、何とも言えない気持ちになった。
大体、母さんは復活も何も、父さんの傍に居たいからという理由で地球に居ただけでそれ以外にない。だからそもそも消滅したわけでも、この世界に居たくないから消えたわけでもない。
ただこの世界の人達って、母さんが人前に姿を現さなかったことに様々なことを思ってしまっているらしい。
……なんで母さんと話したことがあったり、母さんのことを神様だって一番知っているこの世界の人達の方が理解出来ていないんだろうか? 父さんと出会っていない状況の母さんも、誰かに影響されて姿を消すなんてそんな真似は絶対にしないって分かるだろうに。
母さんほど一目を気にせずに好き勝手している性格なのに。
思えば地球に居た頃だって、俺は母さんが神様だなんて全く知らなかったけれどあまりにも人に対する関心がなかったりすることに呆れていたぐらいだし。
夢で出たって、神託じゃなくてただの夢では? なんて無粋なことを口にしたら怒られそうなので口は閉じておく。
「各地でこれだけノースティア神に捧げる催しが起こっているのは良いことですけれど、あまりやりすぎてしまうとノースティア神も嫌がるかもしれませんよ」
少なくとも仮に……非人道的なことでもしていたら母さんはともかく父さんが嫌がる。父さんが眉を顰めるような行為は母さんは絶対にやりたがらないだろうから。
「そうでしょうか? ノースティア様は、他にない捧げものを喜ばれるのではないかと思っているわ。もちろん、こちらが危険な目に遭うようなことはするつもりはないけれどもグランシティダ様は特別なものをノースティア様に捧げるのだとはりきっていらっしゃるらしいわ」
「特別なもの……?」
俺は少しだけ、嫌な予感がする。だって狂信者の言う特別なものってなんなんだろうか……。
その人って、信者達からしてみると特別な信者なんだろうけれどさ、俺からすると何をしでかすか分からない男でしかない。
そもそも長生きしているダークエルフがいう特別なものだろう? ……母さんが邪神だとか、闇の女神とか呼ばれているせいでろくなものじゃない気がしてきた。
「私も聞いた話だけど……特別な魂を捧げようとなさっているのではないかって」
「……特別な魂?」
凄い物騒な単語が返ってきた。というか、魂を捧げるってどういうことなんだ。というか、意味不明すぎる。それを捧げられた母さんに何をしてほしいんだろうか。
第一、神様って魂を捧げられたらうれしい方なんだろうか。俺だったらそんなもの捧げられたところで、扱いに困りそう。
ああ、でも母さんはともかくとして邪神って聞くと魂喰ったりとかしているイメージだしそのダークエルフもそう言う認識なのか?
母さんは父さんのことを愛してやまないから、他の魂なんてくらおうとは思わないだろう。要らないってポイ捨てでもされそうな気がする。
なんだか目の前の女性の感覚的に、魂は神様への捧げものとしては最上級のものという認識らしい。
過去に魂を捧げられてそれを連れ帰ったりした逸話とか伯母さんにあるって聞いた。……伯母さんってそう言う魂を連れ帰ってどうしているんだろうか。
そのまま神様などにするのならばともかく、ただ魂をとどめておくだけだと邪魔じゃね? 魂って自我あるんかなぁ。そのまま倉庫とかに放り込んでいたら、後々自由行動出来るようになった時に報復されそうで怖くね? と正直な感想を思った。
「どんな魂を捧げる気か分からないけれど、ノースティア様のためになるのならばとても素晴らしいことよね。きっとグランシティダ様が選んだものなら喜んでくださるはずだわ」
そんなわけないだろう、なんて思ったが突っ込みはいれなかった。
そのグランシティダのことを母さんは記憶しているかどうかさえも怪しいのに……。神様だからって待ったく知らない相手から色んなものを捧げられるって大変そうだ。
……母さんに魂もらったらどう思うって聞いておこうかな。あと欲しくないなら、どうにかした方がいいよって言っておこう。




