闇の女神の信者達の村についての話 ⑨
歌を捧げる時間が終わった。
ご馳走を食べながら、俺達はのんびりとする。
その間も歌ったり踊っている人達は存在していた。何だろう、こういう催しの間にはずっと何かを捧げ続けたいというのが信者達の思考なのだろうか。俺にはさっぱり分からない。
それにしてもやっぱりここの人達って体力も凄くあるよな。こんなにずっと動き回っているのに元気なのを見るとびっくりする。
俺もこの世界にきてから体力がついてきたとは思う。少なくともただの高校生として生きていた頃よりはずっと歩き回っているし。うん、向こうに居た頃なんてゲームをしたり、漫画を読んだり身体を動かさないことも多かった。当たり前の高校生として生きていた俺が、こうして異世界で適応しているのも不思議な話だ。
……まぁ、俺が生きやすいように母さんが何かしら対策をしているからも大きいかもしれないけれど。
ただなんだろう、こうして俺よりもずっと体力がある優れた人たちを見ると悔しいというか、俺ももっと身体を動かせるようになりたい! なんて思ったりする。俺は魔力量だけはかなりあるから、それでゴリ押しすることは出来る。でもなんというか、洗練された動きですぱっとかっこよく決めるとかしたい。
そんな願望が出てくるのは、この世界で生きて行くことに慣れてきたからなんだろうなぁ。
「サクトさんはいつから、ノースティア様の信者に?」
食事を摂っていると、そんなことを問いかけられる。
俺の目の前にいるのは俺より少しだけ年上だろうまだ若い女性の信者だ。少しだけ露出激しめな服装をしているのは、母さんがそういう服装を身に着けているとされているらっぽい。それも真っ黒である。
……俺、どう答えようか。
そもそも母さんは俺の親なので、産まれた時からそうであると言えるのかもしれない。ただ神様と知ってからとなると最近。というか、俺は明確には信者とは言い難いけれど……・
「最近ですね。ここ数か月です」
そう答えておく。
「まぁ、それは素晴らしい。この世の中にはノースティア様の素晴らしさに気づかない愚か者が多すぎるのだわ。それなのにまだ若い身で、ノースティア様の素晴らしさに気づくなんて本当に素晴らしい」
「そうですね。……俺としてみれば、敬意を払える全ての神にそう言う感情を向ければいいかなとは思いますが」
もちろん、しょうもない神様にはそういった感情は向けられない。敬意なんて欠片も持てないような性悪な神様も居そうだしなぁ。だから全員に「神」だからなんて理由で敬意は向けられない。そもそもそれだと俺も客観的にみれば「半神」で、信仰の対象になってしまうし。
……神界に居る神様ってどういう性格の人達が多いんだろうか。母さんのことを恐れている神様も多そうだから、その子供である姉さん達も過ごしやすいんだろうけれど。
だからといって、母さんの子供である俺達にだけ恭しい態度取られても困るけれど。
なんだろう、俺、身内に神様が居るからこそ「神」だからって全てを敬う必要はないかなってそう思うのかも。
普通の人達にとっては神というだけで別次元の、逆らってはいけない存在だろうけれども。俺にとっては神様が身近な存在だからなのだろうな。
「ノースティア様以外の神への信仰心もあるのですね。……そういうのは、ノースティア様だけの信仰をすべきみたいな考え方の人がいるから発言には気を付けた方がいいわ」
……一柱の神以外は、信仰しない方がいいとかそう言った考え方の人達に遭遇したら会話は試みるけどどうなんだろうなぁ。
あれか、神の中には自分だけを信仰することしか許さないとかそんな思考の人っているのかな。いそうだな。なんか母さん見ていると神様ってかなり変わった性格の人多そうだし。全員が全員とは言わないけれど、神様って自分の言葉が叶うのが当たり前の人達なんだよなぁ。
母さんに限って言えば、「信仰? したいならすれば?」ぐらいの感覚しかないはず。
そう考えると母さんって、邪神とか闇の神とか呼ばれているけれどそう言う部分は信仰しやすい神様なんだよなぁ。
「ご忠告ありがとうございます」
そう言う人たちと遭遇した場合は、その時になってから考えよう。
俺はお礼を言いながらそんなことを考えるのだった。
「あ、そういえば知っているかしら」
しばらく話していると突然、そんなことを言われた。
何か俺に言いたいことがあるらしかった。
「何をですか?」
「私たちはノースティア様を喜ばせるための催しを行ったでしょう?」
「はい」
「各地でこういった行動が活発しているの。実はね、グランシティダ様がノースティア様から神託を受けたらしいの」
……まず思い浮かんだ感想は誰だ、それだった。
話を聞いてみると、母さんに特別視されていると噂のダークエルフの一人らしい。誰やねん、ってそんな突っ込みをいれたくなる。




