闇の女神の信者達の村についての話 ⑦
『咲人は、神になりかけてはいるけれど人として生きるつもりなんだよね?』
(あー、うん、まぁ。俺が母さんの血を継いでいるのは確かだし、神様になりかけているのもそうなんだろうけれど……。少なくとも俺は神様って自覚はないし)
俺が神の血を継いでいる半神であることは紛れもない事実。それはすっかり受け入れてはいる。俺はそう言う存在で、明確に人間とは言い難い。ただそうだったとしても――俺は人として生きるつもりしかない。
少なくとも今のところは。
俺がもっとこう……ずっと長生きしていけば意識も変わるかもしれないけれど。
『んー。なら、一回記憶飛ばしとく?』
(母さん……? 何言っているの? 俺の記憶消そうとしてる?)
『うん。だって、私の息子だって記憶があればそれだけ神の血を引いているってバレる可能性があるわけでしょ? ならばない方がきっといいんじゃないかなって思うけれど』
(……ねぇ、母さん。それ、俺のことを考えている風だけど、合法的に父さんと関わる存在を減らそうとしているだけでしょ)
『あ、ばれた?』
母さんの悪びれのない声が聞こえてくる。……本当に母さんだなって感じ。
父さんだって俺が決めて記憶を消したならそれはそれで受け入れるだろうし、そうなればハッピーとでも思っていたのかも。母さんって本当、父さんに関わるのは自分だけでいいって思考が強すぎる。いや、まぁ、本人が言っている通り俺のことを考えてというのもあるだろうけれど。
母さんらしすぎる。それでいてなんか憎めない感じなのが、余計母さんって感じ。
この世界でも母さんは、邪神だとか言われているけれども忌み嫌われているだけなわけではないし。こうして信仰もされている。
どちらかというと、ただただ恐ろしいからこそ邪神呼ばわりされたりしているだけな気がする。
なんというか、神様としてあえて人々に好かれる行動なんて一切していないというか。人の目を気していないというか。それが母さんなんだけれど。
『ねぇ、咲人。どうしたら博人がもっと私に夢中になってくれると思うー? 私はね、こんなに博人のことが大好きで、博人以外は消してしまいたいって思っているのに。博人は他の人と関わりたがっていて、私だけだと駄目なのかなぁって。ああ、でもね? 博人は人と関わりたがっているからこそ博人なんだけれど……!!』
……うーん、これは何と答えるべきなんだ?
というか、母さんはこの世界に戻ってきてから余計に愛情の重さを隠さなくなった気がする。
息子にこんなこと聞いてこないでほしい。返答に正直困る。なんか、うん、母さんの愛が激重すぎて俺は困るよ!! なんで父さんはこんなに重すぎる感情を向けられて平然としているんだろう。本当に凄いと思う。
しかも父さんが母さんと出会ったのって俺と同じ高校生の頃なんだろう? もっと大人になって精神的に余裕があるからともかく、十代でこれ受け止められる父さんって凄すぎじゃね?
なんだろう、母さんの顔は見えないし、聞こえているのは声だけなんだけれど、きっと目が据わっているんだろうな……。
(今でも父さんには母さんだけだよ。寧ろこんな重すぎる母さんの感情を嫌悪感一つみせず受け入れている時点で父さんが母さんを愛しているってことだし、いいんじゃない?)
『それはそうだけどぉ~。博人ってばね、どんな私を知っても自然なの。最初からずっとそうだった。私が神様で、博人のことなんて簡単に消し飛ばせるぐらいの力を持っているって知っていてもいつもあんな感じなの!! 私に対して遠慮なんて一切しなくて、流石、私の博人って感じ。ほら、咲人だって私に対して少し遠慮しているでしょ? 私が神様だって知って余計にちょっとそうしているよね?』
(あー、うん、そっか。良かったね。母さんは父さんと出会えて。あと遠慮するのは当たり前だろ。そもそも自分の親なんだから、親子としての礼儀はあるよ。神様だって知って遠慮っていうか、戸惑いはしてる)
『ふふっ、本当に博人と出会えたのが私にとっての一番の幸運なんだよ。ふふっ、戸惑っていても素直に私に意見したりするのが流石博人と私の息子って感じがするわ。地球に居た頃は博人に合わせてちょっと、見た目の年齢をそろえていたけれど今の私って博人と出会った頃の私なんだよねー。この格好で、コスプレでもして襲おうかな??』
(……母さん、息子にそんな夫婦のことを赤裸々に語らないで。俺は反応に凄く困るから。まぁ、父さんは母さんのやることはなんでも受け入れるだろうからやりたいようにやったら?)
『そうする! じゃ、またねー』
それだけいって、母さんの声はぶつりっと切れた。
本当にマイペースすぎる。言いたいことだけいって去っていった感じ。
そうして母さんと話しているうちに奉納の義は終わっていた。全然聞いてなかった。でもこの人たちにとっての神様である母さんの話を聞いていたわけだし、まぁ、問題はないだろう。




