闇の女神の信者達の村についての話 ⑥
「ではこれより、ノースティア様への奉納の義を開始する」
村長がそんなことを宣言した。
――のんびりとこの村で過ごすことしばらく。母さんへの信仰心を伝える催しが始まった。ちなみにその間はずっと皆、黒装束を着るようになっているらしく貸してもらった。
それにしてもこれだけ真っ黒な空間って、うん、不思議だ。外から人が訪れて目撃したら変な儀式をしている人達とでも認識されそうな気がする。まぁ、仕方ないだろうけれども。
ただこうやって外から見たら変なことをしているように見えたとしても、そうではないことってきっと沢山いる。もちろん、実際に危険なことをしている可能性も無くはないだろうから、よっぽど安全の確保が出来ないのならば関わることはきっとしない方がいいだろう。
俺がこうしてのびのびと穏やかな気持ちでこういう場所にやってこられるのって、結局それだけの力があるからと言える。クラもいるし、何か問題が起こったとしてもどうにでも出来るから。
ちなみに魔法陣のようなものに関しては、前日までにある程度作っておいたようだ。今日、催しの始まりと同時に最後の部分を完成されたみたい。
毎回、そんな風にしているんだって。それで終わったら全部綺麗に消すらしいので本当に手間がかかっていると思ってならない。それだけ母さんのためにならば時間をかけてもいいと彼らは思っているんだろうな。
ある意味信仰って、前世でいう推し活とかと同じような感じなのか? 地球での知り合いが大好きな物のために一生懸命、何でも行っていた印象。いや、でも信仰をそれと一緒にしたら怒られたりしてしまうだろうか。
描かれた魔法陣の前で一斉に祈りを捧げる。これだけ多くの人達が母さんに向かって祈りを捧げているなんて本当に変な気分。皆が一同にこんなに祈りを捧げるってなんだかすごい光景だ。
俺はただこんなことを思考しているだけで、全く母さんへの信仰については思考していない。
『咲人、何しているの? そこから私への信仰心凄く届くんだけど』
ぼーっとしながら、祈りを捧げているふりをしていたら急に母さんの声が脳内に響いてびっくりした。いや、まぁ、母さんって仮にも神様だし、こうやって知らないうちに俺の思考を読み取るとか、様子を見るとか簡単に出来る。それは理解しているけれど、前触れなく話しかけられるのはまだ慣れない。
(母さんを信仰している村。ちょっと寄り道中。此処の信者の人達、母さんが見ているって知ったら感激して崩れ落ちそう)
『そうなの? ふーん、相変わらず信者はよく分からないね。そんなことで感激されても困るけれど。私の博人のことはまだばれてない?』
(うん。父さんの存在は知らないと思うよ。知ったら凄い騒ぎになるかと。だって、母さんの唯一無二な夫だし)
『ふふっ、そうだよね。私の博人は凄いから、それを皆が知るのはいいことかも。でも私の博人のことを皆が知るのは嫌。信者の中にも、私の寵愛を得るのを夢見るバカ居る。私の博人に同じ感情抱く存在いるなら、抹消しなきゃ』
(……母さん、俺の脳内で物騒な発言しないで。俺は自分の母親にそう言う感情抱いているのを目撃したら複雑な気持ちにはなるなぁ。あと父さんはそう言う感情抱かれても多分気にしないよ?)
『博人が気にしなくても、駄目。だって博人は私のなんだから、他の存在が博人のことを気に入ったりするのは絶対無理。許さない』
(……そう。ところで母さんが話しかけてきたのは、ただ俺のことを見ていたからなだけ?)
母さんがわざわざ俺に話しかけてきた理由ってなんだろう? そう思いながら問いかけてみる。これで何かしら面倒なことを頼まれたりしたら嫌だなとは思う。母さんの頼みならば余程のこと以外は俺も受け入れるけれどさ。
そう思って身構えていたけれど、特にそう言ったことはないらしい。
『うん。そうだよ? 博人がね、咲人のことを心配しているから見ているだけ。ほら、咲人も自分からこっちに連絡をしてきたりしないでしょ』
(だって父さんとの仲を邪魔したら母さん不機嫌になるじゃん)
『それがそうだよ? 幾ら息子でも博人との時間を邪魔するのは駄目。でも適度に博人は報告してほしいみたい』
……母さんって、本当自分本位というか、我が道を行くよなと思った。
本人としては父さんとしての仲を邪魔してほしくないらしい。しかし父さんには適度に連絡はした方がいいとか言っている。うん、なかなか難しいことを言わないでほしい。
(あー、うーん。寧ろ母さんや父さん側から話しかけてくれた方がいいよ。だって俺が話しかけて邪魔したら悪いし。ちなみに母さん的にはこうやって信仰心捧げられるのってどうなの?
『どうでもいいかなぁ。私の信者なんだなーってそれだけ。咲人はいつまでそこにいるの?』
(しばらく。そのうち去るよ。俺が母さんの息子だって言う気もないし)
『ふーん。そっか』
母さんは自分で聞いといて、興味がなさそうだった。本当にマイペースだ。




