砂漠を抜けた後のこと ⑤
身体を起こして、家の外に出る。何の騒ぎだろうかと少しだけ不安にはなった。
ある程度の事は片付けられる自信はあるけれど、異世界の面倒事ってすぐにどうにか出来ないこともあるだろうしな。
……なんというか、俺、この世界にきてから割とトラブルに遭遇もしているしなぁ。
俺が母さんの息子だからってのもありそうだけど。あとはただ単にこの世界だと旅人って大変だからというのもありそう。
幾らどれだけの立場があったとしても、身分を証明できなければただの人でしかなく……簡単にどこかのタイミングで亡くなったりもする。
「何の騒ぎだ?」
俺がそう言って問いかけると、そこにはフォンセーラと村人の少女が対峙していた。少女の後ろには何人かの男性が居た。
……本当になんだ?
よくわからなさすぎて、疑問に思った。
「サクト、この人たちは私達に望みがあるらしいの。ただそれを拒否したら、これなの」
「望み?」
「……私を置いていってほしいそうよ。この村は女性が少ないから、女性を増やしたいんだとか」
「え、なんだそれ」
人権も何もない感じのことをこの村の人達は言い出しているらしく、俺は大分驚いた。いや、だっていっていることがおかしすぎる。
辺境の村だからこそ、一般的な感覚がないとかそういうのはありそう。閉鎖的な場所ほど、よく分からない理屈とか、常識がまかり通っている可能性って十分にあるしな。
此処って人があんまり訪れないからこそ、そう言う場所なんだろうなっては思った。
「代わりに食糧は渡すんだぞ? それなのにどうして拒否をするんだ?」
「こんな所にまで来ているのならば、苦労しているのだろう」
男たちがそんなことを言う意味は一瞬分からなかった。いや、まぁ、でも確かにこんな村にまでやってくる人って本来ならば生活に苦労している人達ばかりだったりするんだろうか。それはありえそう。基本的にこんな村までやってくる人って変わり者か、よっぽど人気の多い場所に居たくない人とかだろうし。
「それに此処は女性が少ないの。だからこそまるでお姫様か何かのように接してもらえることが出来るのよ。苦労して旅をするよりもずっと、この村で過ごす方が楽に決まっているじゃない!!」
女の子がそう口にして、意気揚々とした様子だった。
それって楽しいのか? と俺には気持ちが分からないので不思議に思った。
そもそもお姫様のような生活って、何でもかんでも世話されるとか、やりたいことをなんでもやらせてもらえるとかそう言う感じか? 正直そんな不自由すぎる暮らしに何のメリットも感じないタイプなので、俺はよく分からないなと思ってしまった。
王族みたいな暮らしって勝手に言っているだけで、全然そう言う暮らしではないだろうしな……。そういう権力者って力がある分凄く不自由そうなイメージが勝手にある。
「私はそれを拒否しているわ。話を聞いていても全く惹かれない環境ね。私にはやることがあるの」
――フォンセーラの言うやることというのは、母さんの事だろう。母さんへの信仰心を持って入れば、此処に留まろうなんて思わないのは当然だった。
特にフォンセーラは母さんが父さんをどれだけ思っているかを俺や姉さん達から聞いて知っているのだ。母さんが愛というものを大切にしていることを知っているのだから、そんなむやみなことをしようとはしないだろう。
「拒否をするなら私達にも考えがあるわ」
そう口にしたかと思えば、俺の方を鋭い目で見つめる少女。……なんか、しょうもないことでも考えてそう。
「此処に居ないあの少年がどうなってもいいのね?」
なんだ、ノスタの代わりにフォンセーラを渡せとでもいう気なのだろうか。最悪すぎる。そもそもそんな等価交換で、誰かを犠牲にするのとか嫌すぎるんだけど。
「クラ」
「うん。助けてくるね?」
俺が肩の上に乗っているクラへと声をかけると、すぐさまクラはその場から去る。目の前の連中はたった一匹の猫が何か出来るとは思っていなさそうだった。
クラはただの猫じゃないけれど、ただ愛らしく鳴いている姿を見ると神獣だとはとてもじゃないが思えないのだろう。
「フォンセーラ、下がって」
俺がそう口にすると、フォンセーラは心得たとばかりに後ろに下がる。その一瞬で魔法を完成させる。相手を寄せ付けないようにする魔法を使っておいて、後はクラを待つ。
このままノスタを回収出来たら、村からずらかることにしよう。
ずっと滞在していてもろくなことにはならない。
後は何かしらこの村が所属している国とかに告発はしとこうかな。村人の女性を無理やりとどめようとするっていうそれだけ。問題視するかどうかは領主とか次第だろうからそのままかもだけど。
でもまぁ、正義感が強い人ならばどうにかしようとするんじゃないか? なんて勝手に思っている。
「ただいま」
少しするとノスタを回収したクラが帰ってきた。ノスタは気を失っている。何か盛られたんだろうか? 1人でこれまでも旅をしていたはずだし、簡単にやられるとは思ってなかったんだけど。
そう思いながら俺はそのまますぐに村を出た。




