コミック2巻 発売記念SS いつ恋に落ちたのか?
『婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜②』
講談社KCx様より10/30日に発売しました!ぜひお手に取ってくださいね♡
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「お前さ〜この前会ってた恋人のアキちゃん? うまくいってんのか?」
夕食の後片付けをしながら、セリスは聞こえてきた団員たちの世間話──否、恋バナに耳を傾けていた。
(ふふ、皆さん楽しそう)
第四騎士団の悪評が払拭された今、団員たちの人気はうなぎ上りだ。
街に出れば多くの住民に声をかけられ、時には差し入れもいただいたりする。
その際に異性と関わることも増え、最近団員たちの中では恋人ができた者も多いらしい。
「うまくいってるの何のって!もうアキちゃん最高なんだよ……俺幸せ……」
「予想以上の惚気に羨ましさが溢れ出してきたけど……まあいいや。お前さ、いつからアキちゃんのこと好きになったんだっけ?」
「えっとな──……」
そんな団員たちの会話に、セリスはふと思った。
(ジェドさん、いつ私のこと好きになってくれたんだろう?)
◇◇◇
「──と、いうわけで、いつ私を好きになったのか教えてくれませんか?」
同日の夜。
ジェドの私室でそう問いかけたセリスに、彼は少し驚いてから愛おしそうに微笑んだ。
「珍しく急だな、セリス」
「すみません。さっきの皆さんの話を聞いていたら、気になってしまって」
「ま、いいけどな」
ジェドはセリスの頭を一撫でしてから、ソファに腰掛ける彼女の隣に腰掛ける。
ドキドキと胸を高鳴らせながら、セリスは耳を傾けた。
「……今思えば、割と最初からだったのかもな」
「えっ」
「ほら、セリスが第四騎士団来た日に言ったろ? 自分の目で見たものしか信じない、って。俺も同じ考え持ってたから……あん時からもうセリスは俺にとって特別だったよ」
「っ」
自分で聞いておいてなんだが、こうも素直に話されると恥ずかしくなってくる。
とう返せばいいのか分からず俯いたセリスだったが、ジェドは気にすることなく言葉を続けた。
「ま、良い子だとか妹みたいだとか言って無意識に言い訳作って……そういう目で見れないようにしてるつもりだったんだけどな。無理だった」
「……あの」
「そんくらい、セリスのこと他の野郎に奪われたくなかったんだよ」
「あ、あの……!」
全身の血が沸騰しそうなほどに熱い。
セリスは少し顔を上げて目だけ彼に向けると、弱々しい声で囁いた。
「どうかそれくらいで……もう恥ずかしいです」
「ハハッ、自分で聞いといてギブアップなんて、セリスは根性ねぇな?」
からかうような声なのに、その声さえ身を捩りたくなるほどに擽ったい。
「その点についてはすみません……」
「……で、セリスは?」
「え?」
「セリスはいつから俺のことが好きだったんだ?」
「それは……」
いつだと問われると、明確には答えられなかった。
ジェドのことは、初めから素敵な男性だと思っていた。箱入り娘のセリスからすればそもそも男性と出会う経験が少なかったし、元婚約者はあのギルバートだ。
騎士、という点は同じだったが、正直なところ他の部分では全て違っていたので、そう思うのは致し方ないだろう。
(いつから、なんてそんなの……)
ジェドはセリスの青い瞳を冷たいとは言わない。
無表情であることを責め立てたりもしない。
それに彼は優しく、一度味わえば逃げ出せないほどに甘かった。妹扱いされているだけなのだと思おうとしても期待してしまうくらいには、いつの間にか彼に惹かれてしまっていた。
(つまり、一応答えるならいつの間にか、なんだけど……)
あのジェドはそんな答えで納得してくれるとは思えない。
根掘り葉掘り聞かれるのがオチだ。あの優しい目で、優しい声で、絶対に逃げられないように。
(そんなの無理……!)
ともすれば、何かと理由をつけて退散しよう。意を決したセリスは、深々と頭を下げた。
「すみませんジェドさん。やり忘れていた仕事を思い出しまして……」
「そりゃあ大変だ。──けど」
ジェドが秋の風のようにカラッとした笑みを浮かべたのは一瞬だった。
「それ、嘘だろ?」
「きゃあっ」
ニッと口角を上げた彼に抱き上げられたセリスからは、控えめな叫び声が上がる。
普段から鍛えていて、絶対に自分を危険な目には合わせないジェドが相手だ。抱き上げられたことに不安や嫌悪こそなかったが、さすがに驚きは隠せなかった。
人一人抱き上げているとは思えないほどスタスタと歩くジェドの胸を、セリスはぽんぽんと叩いた。
「ま、待ってくださいジェドさん! そっちは寝室です! 私仕事が残ってて……!」
「俺がセリスのことどんだけ好きか知らねぇのか? 好きな女の嘘くらい見抜けるに決まってんだろ?」
「……っ」
これ以上何を言っても誤魔化せる気がしない。
口を閉ざせば、頭上から「素直だな」という柔らかい声が聞こえた。
「けど、嘘は駄目だろ? それに……セリスだけ言わねぇってのはフェアじゃないよな?」
「あ、あのジェドさん、謝りますから一旦下ろして……」
「だーめ」
スッと細めた薄紫色の瞳が楽しそうにセリスを射抜く。
「謝罪も、俺のこといつ好きになったのかも、ベッドの上で聞くから。覚悟しとけよ」
出来心で口火を切った過去の自分に物申したい。
自分が答えられないことを、人に聞くべきではないと。
セリスはそう思いながら、陽だまりの匂いがある柔らかなベッドに包みこまれた。
お読みいただきありがとうございました!
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