三十五話 火種と正体
「他の者は下がらせた。二人共楽にせよ」
王の間に入って挨拶を済ませた二人は、国王の言葉により顔を上げる。
社交界デビューのときは緊張してあまり見ることが出来なかったが、改めて国王の顔を見て、セリスは大きく目を見開いた。
(少しジェドさんと似ている気がする)
隣のジェドに視線を移す。真っ直ぐに国王に視線を寄せるジェドには緊張といった雰囲気は感じられない。
セリスは再び国王を視界に捉えた。
「して、急にここに来たということは、ハベスの件が片が付きそうなのか?」
「はい。有力情報を得ました。団長室のテーブルの下──床下に証拠を隠してある可能性が高いと思われます。……おそらく間違いないかと」
「ふむ。それなら直ぐに人を向かわせて調べさせよう。と、その前に──」
ジェドと同じ瞳の色をした国王の視線が、そろりとセリスを捉える。
セリスは無意識にぴしっと背筋を正した。
「君は──セリス嬢だったな。既にジェドから話は聞いたか?」
「……? 恐れながら、何についてなのかが分からないためお答えできません」
「……おいジェド、お前まだ言ってないのか」
国王が呆れたように「ハァ」とため息をつく。
口調もやや砕け、ジェドとは親密な関係なのだろうと、予想するのは容易かったが、セリスがそれを口にできるはずもなく、ちらとジェドに視線を寄せる。
ジェドは「俺は約束を守ってるだけでしょう」と言いながら、ジト目で国王のことを見ていて、セリスはますます意味が分からない。
「セリス悪い。順番に説明する」
「? は、はい」
「まず、ハベス──第二騎士団長についてだが」
そこからジェドは、セリスに向き合って説明を始めた。
まず第二騎士団長──ハベスは、公爵家の現当主である。
昔から力のある家で、王族の次に国に影響力がある貴族だと言われていた。
王族にとって力のある貴族というのは味方にすれば心強いが、敵となれば厄介この上なかった。そしてそれは、二十三年前、ジェドが産まれる年に現実となる。
ハベスが裏から手を回し、王族の側近たちや、国の重鎮たちを買収し始めたのだ。
このことにいち早く気付いた前国王は素早くことを沈静化させ、事なきを得た。しかしハベスが反乱を起こそうとした確たる証拠は見つからず、何一つ罰することは出来なかった。
「それから一ヶ月後、前国王陛下の側室が男子を産んだ。つまり現在の国王陛下の弟だな」
現国王とその弟は十七つ歳が離れている。というのも、前国王は無類の女好きだったのだ。年老いても現役だった。
「側室の子は王位継承権を持つ。しかし既に現国王陛下は十七歳で、国民全員が次の王は決まったものだと思っていたし、前国王陛下もそのつもりだった。そうするとだ、その弟の存在は余計な火種を生む存在でしかなかったんだ」
「火種…………?」
「ああ。ハベスが反乱を起こし、それが成功したとしても、民は馬鹿じゃない。いくら公爵家の人間でも、王族の血が流れていなければ反感が大きいのは目に見えている。──そこで、その弟だ。弟以外の王族を殺し、その弟を次期国王陛下として祭り上げる。だが子供に政治は出来ないから、実権はハベスが握れるというわけだ」
というわけで、余計な血を流させないためにも、ハベスを今の地位から引きずり降ろし、糾弾できるだけの証拠が必要だった。
そこで第二騎士団騎士団長としてのハベスに目をつけたわけだ。
「ハベスは昔から家柄重視で金に汚い。公爵家の金の流れも怪しいものが多いが、王族自らが干渉しづらい。……その点、騎士団は王直下のものだ。そんな騎士団内で不正を働いたとあれば問題提示しやすいし、証拠も探りやすい。現に奴は騎士やその家族から賄賂を受け取っていた。だから、俺はハベスの悪事の証拠を掴むために第二騎士団に潜入していたんだ。陛下の命令でな。……まあそれも、問題を起こして第四騎士団に移動になったんたが」
「……………なるほど。陛下の命令で潜入していたから、第四騎士団への異動で済んだのですね……」
(潜入を命じられるってことは、ジェドさんはやはり陛下と親しいのかしら……それともジェドさんが優秀だから……? って、待って。王弟殿下は火種になるって言っていたけれど、今はどうしているの)
セリスが何やら納得がいかないという顔をしているのに気がついたジェドは、一度国王に目配せをする。
国王はコクリと頷いたので、ジェドは「まだ続きがある」と話を続けた。
「とりあえず、今回のギルバートの証言でおそらくハベスの悪事の証拠が見つかるだろう。そうすればハベスを引きずり下ろせる。……無事に現国王陛下も即位し、国も安定しているし王太子も年齢が十八になったから、いざというときはいつでも即位できるし…………これでやっと、俺はセリスに隠し事をせずに済む。ハァ……長かった。流石に二十三年も出自を隠す生活になるとは思わなかった」
「私もここまでかかるとは思っていなかった。済まなかったな……ジェド、今まで母方のジルベスターの名を名乗らせて」
「……えっ、…………えっ!?」
セリスはもしかしてと思うものの、信じられないと口をぽかんと開ける。
ジェドはそんなセリスの頬をむに、と摘むと、柔らかく微笑んだ。
ほんの少し罪悪感が孕んだその表情に、セリスは自身の疑念が確信に変わったことを、嫌というほど理解した。
「えっと……つまり……ジェドさんは──」
「騙してごめんな、セリス。俺は前国王陛下の息子で現国王陛下の弟──ジェド・ベルハレムなんだ」
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