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豊穣の女神と飢餓の魔女  作者: 水沢 流
フクと愉快な仲間達
24/35

金色の声

「お呼びです、って言うから直接話をするのかと思ったら…」

「口を慎め、フク」

「…あい」


 小声を聞き逃さないとか、ヨミの地獄耳っぷりも凄いですね。


「見事やなあ」


 天帝様の館は、雲の上にありました。

 と言っても、ご本人がおわすわけではなく、伝令用の鏡が安置してある場所なんだとか。

 万里の長城にも似た回廊がぐるぐると周囲を巡る浮遊山で、中央に本殿。色は金色。

 それでも嫌味にならないのは、そのセンスのせいでしょうか。昇り行く陽のような美しい金色です。


 透かし彫りに彩られた道を奥まで行けば、その鏡の前へ。

 着くや否や慣れた所作で膝を折る三人に、慌てて私も続きました。


 ふわ、と鏡が光の色を帯びます。

 そろりと見上げると、鏡の奥が金色に輝いておりました。

 うっすらと見えるシルエットは龍でしょうか。

 光の中、悠々と泳ぎまわる輪郭が、影絵のように鏡面から見えておりました。


『ナギ』

「はい」


 整ったかんばせを強張らせ、神妙な声で応じるナギ。

 ナギのこんな顔初めて見たわ、と思う余裕なんて御座いません。

 天帝様、声だけでものすごい迫力なのですよ、明らかに格上の声。

 神棚蹴っ飛ばす度胸があった私でも、一気に頭が低くなりました。


 …もともと低いですが。


『大して成果が出ておらぬようだな、時は近いぞ?』

「心得ております」

『ナギが務めを果たせぬ時は、ヨミ。お前に後を任せる』

「…はっ」


 深々と頭を下げたヨミが、なぜか私の方をチラ見。

 何でしょう、と思っていると、ギロリと睨まれました。整っている顔なので迫力倍増です!


『では、戻れ。ナギには木霊としての命を与えよう』


 消えゆく光の中、響いたのはそんな声。


「天帝様! それは!」

『二度は言わぬ!』


 ヨミの声を天帝の声が一喝します。

 そうしてまばゆい光が消えた時、私達は郷に送り返されておりました。


「兄上…」

「ナギ…」

「ナギ様…」

「いやだなあ、そんな暗い顔しないで下さいよ」


 背後の布の半分を木の枝に変えられたナギは、にこにこ笑顔でいつもの通常進行。


「木霊として、植物の成長を早められるのですから、願ったり叶ったりです」

「兄上!」

「ヨミ」


 激昂するヨミをなだめるナギ。

 それは親のような、兄のような、どこか優しい声でした。


「高みより見下ろす世界より、地に足をつけた世界が素晴らしいと。そう教えてくれたのはあなたですよ? ヨミ」

「ですが…」

「まあ、ゆっくり行きましょう。天になっても樹になっても、私は私です。さて、フク。何から育てれば良いですかね?」


 そう、のんびり言う声にはあせりのかけらもありません。本人的に木になる事もやぶさかではない感じです。

 その器、ムダに広いなあと思いつつ、私はナギの方を向きました。


「じゃ、コンニャク芋からよろしゅうに」

「はいはい。それじゃヨミ、私が宿る神木を探して来て下さいね」

「…わかりました」


 複雑な顔をしつつも、しぶしぶ従うヨミ。

 本当に、本当に――ナギが大切なのでしょう。


「…ええなあ」


 兄弟がいると大変だと、良く聞きますけれど。

 こう言う光景を見ると、兄弟っていいなあと、思わずにはいられないのです。

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