色とりどりの夢の跡
咲いたー咲いたー、あかしろきいろ…。
「あと、みどり…」
「うんうん」
「紫もありましたねえ」
ありました!
「世界地図出てたで? ねえ、すんごい未知の大陸とかあったで!?」
炊いた米、白の大地に現れし新世界――もとい、カビのコロニー。
目を閉じて一気に行きました。新手の菓子と自分を偽って食べました!
「えっく」
気分は培地です。心頭滅却すればカビだって美味しく――なったりしない事を実感しました。
ますますキョウの味覚が謎でございます。あれが美味しいとか、どんな味覚。
「もうカビ食わん…」
「だから悪かったってばぁ、カビが必要になるなんて思わなかったのよぅ」
そう苦笑するキョウの膝を借りて、びっすびっすと鳴き暮れる私。
それを、なぜかもふりまくるナギ。
…静電気立ちますから、それ。
「後で、おいしいもの食べさせてあげるからぁ」
「そうですね、そうしましょう」
「そのご褒美がなけりゃ、あんなチャレンジせんかったわー!」
ぐしぐしと涙をぬぐって、とどめとばかりに、干したコンニャク芋をぱくり。
嫌な事は先に片付けるものなのです。
コンニャクのビリビリ味だって今のうちに食べておけば――!
「あれ?」
…もぐ。
「んー?」
「どうしました?」
「んや、私の舌がカビでボケたっちゅうことかと…」
もぐもぐもぐ。うん、舌が痺れません。
「カビ効果ですかねえ」
「や、それはねーべ…」
私が食べた事あるコンニャクに、「先にお食べ下さい」ってカビついて来ませんでしたし。
とりあえず、この芋にやった事と言えば――
1.消毒のためにゆでる
2.干す
3.かじる
以上。
「ああ…」
そっかそっか、ゆでたり干したりすりゃいいのですね。
とりあえずアク抜きの方法はよっくわかりました。念のため、次に試す時はアク抜きの定番、米ぬかとか灰汁とか加えてからやりましょう。
「コンニャク、攻略できそうかも…」
ひらひらっと干し芋を振ってそう言ったとたん、頭上にさす影。いや、光。
「ヨミ…」
芋食べる? と手を差し出す私の手を、エア平手でひっぱたくヨミ。
芋は嫌いですか、そうですか。もう毒はありませんよ多分。
せめて手で叩きませんか、と思ってヨミの手元を見ると、見事な細工の櫛が握られておりました。
神棚とかに供えられていそうな櫛です。漆黒の漆に金銀と白蝶貝で蒔絵をほどこした一品で、夜明けを彷彿とさせるような雰囲気にあつらえてあります。綺麗です。神器でしょうか。
「兄上」
「はい」
「天帝がお呼びです」
「おやおや、それはそれは」
しょうがないですねえ、みたいな調子で立ち上がるナギ。
それを、ヨミの無表情が眺めていました。
「ヨミってさ」
「なあにぃ?」
「表情筋凍ってんとちゃう?」
なんかこー、人生の面白味を知らない生真面目さんって雰囲気ですし。
「ナギ様がおおらか過ぎるのよぅ」
「そーかも…」
能天気に堅物、なかなか正反対の兄弟ですね。
そんな事を話し合う私達の横を、やけに毛並みを整えられた椿が、とっとこと郷の方に歩いて行きました。
「……」
ちら、とヨミの櫛を見ます。
その櫛歯の間に、見覚えのある犬の毛が数本、ふわふわとそよいでおりました。




