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豊穣の女神と飢餓の魔女  作者: 水沢 流
フクと愉快な仲間達
22/35

時にはカビも必要です

「こっち、はかま脱がせ終わったわよぅ」

「あいよー」

「立派な先端の膨らみしてますねえ」

「子種詰まっとるからな」


 ええ、土筆(つくし)の話です。


 はかま――土筆の節についているヒラヒラを全部むきおわれば、ようやく準備が完了します。

 この作業が意外とめんどいものでして、指が真っ黒になるのですよね。

 洗えばよいのですが。


 ちなみにキョウはほっそい指先を使って残らず綺麗にむきまして、ナギは風を使って空中土筆むきを披露。

 主夫レベル高いですねお二方…私の五倍はむきましたよ。


 ともあれ、煮え立つ湯にそれらを入れてからがお楽しみ。

 しっかりと先の詰まった土筆は、加熱した瞬間、ぱあっと先端が茶色から緑に変わるのですよ。

 そりゃもう、野菜顔負けの綺麗な緑。生えている時の茶色さがウソのようです。


「んで、その天帝様とやらに、ナギは怒られて来はったと」

「そうなんですよねえ」


 茹でた土筆をせっせとザルにあげる私の言葉に、うんうんとうなずくナギ。


「キョウも知ってたん?」

「知ってたわよぅ。二人で力を合わせて郷の文明を進めるようにって、ナギ様に言われた時から、私は代替わりしていないもの」

「…さよか」


 それなら、のんびり祠にいる場合じゃなかったのでは。


「途中で出て来ようとは思わなかった?」

「ええ? だってフクが『待ってて』って言うからぁ」

「……」


 おあずけ命じられた犬ですか。


「ナギは?」

「いやあ、駄目だったら駄目だったで、木霊にでもなればいいかなーって…」


 あなたはゴールが苗ですか。

 神様は視野も心も広いと言いますが、広すぎてちょっと理解不能です。


「まあ、私を選んだのは間違いなかったんかもなあ」


 一応、先の文明を知ってるし。

 神様の中では感性が人間に近いと思うし!

 最も、もーちょっと昔の人を選んだ方が、知恵は豊富だったと思うんだけどねっ!


「とりあえず、近日中に蔵できるから。そこで味噌作りからやろうと思ってん」

「みそ?」

「味噌」


 取り皿に土筆をわける私の、翼をさりげなくもふもふして来るナギから翼を逃がしつつ、その単語を繰り返してみます。

 

「ゆで大豆に麹を混ぜてな、作る漬物みたいな物や。酵母は酒があるからおるけど、麹は…」


 そこまで言って、はたと固まる私。


「キョウ」

「なぁに?」

「味噌に使う(こうじ)って、カビの仲間なんやけど。…もしかして」

「おいしかったわよぅ?」


 ああ…予想はしていたけど。

 していたけど、やっぱり!


「シキに、米カビさせてもろてくる…」


 役立つカビまで減らすとか、防カビ剤も真っ青ですねキョウの悪食。


「今から?」

「後で」


 先においしいもので自分を和ませてからじゃないと、さすがに心が折れるっちゅん。


 ちなみに土筆の取り分はキョウの方が多め。後々に生えて来るスギナが、畑の雑草として猛威を振るうので、何事も過ぎたるは何とやらで調節です。除草です。


「カビ…うん、ちょっと色がついたと思えば! 緑とかチーズの中にもあるしっ!」

「そうそう、美味しいものはみんなで食べなきゃ」

「キョウの味覚と一緒にせんといて…」


 人がせっかく、前向きに頑張ろうとしてるんですから。

 それにしても麹ってどんな味なんでしょうか、効き酒って言うのは知ってるけど、カビのテイスティングとかやった事ありません。


「やっぱ、麹を多めに食べた方がいいんやろうけど…」


 何でしょう、この、創生ゲームで、バランスのスライダー動かすようなありさまは。

 しかもミクロの世界です、せめて顕微鏡があったら……だめですね、麹の形を見分けられませんので。


「フク様ー、米炊き終わりましたよー」

「今行くー」


 まずは夕餉です。ゆでた土筆はおひたしで。


 醸しの道も一歩から――



 女神フク。覚悟完了。


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