頭が真っ赤に染まる
「ゆめ!!!」
沢田さんから連絡が来て、頭が真っ白になった。息が苦しくて、とにかく必死でここまで走ってきた。
なにも考えられない頭で、ゆめを探す。すぐに見つけた。
「ゆめ!ゆめ!」
「ゆめちゃん先輩っ…」
ゆめは、目は開いていた。声は出ないらしいが、意識もある。でも、背中に当てられたハンカチが真っ赤に染まって…。
「ゆめ…」
ゆめの手を握る。してあげられることが、これしか思い浮かばない。
「叶くん!」
頭が、真っ赤に染まった。
「…お前か」
桃とか言う気持ち悪いこいつ。こいつがゆめを刺したんだ…。
「殺す」
蹴りを腹に入れようとした僕を、何故か沢田さんが足にしがみついて止める。
「…なに?」
「今はゆめちゃん先輩を優先してください!その後いくら殺してもいいから!」
そう言われて、爆発四散していた思考が少し戻ってきた。そうだ、こんな奴に構ってる暇はない。
「ゆめ、離れてごめん。大丈夫だからね」
再びゆめの元へ戻り今度は僕の持ってるハンカチでゆめの怪我を押さえた。
ゆめは何故かホッとした顔をしたので、やっぱり離れて不安にさせたかなと反省する。
「…沢田さん、色々ありがとう」
「いえ…ゆめちゃん先輩、そろそろ救急車…きた!」
救急車が来た。なんやかんやと聞かれたが、沢田さんがほぼ対応してくれて僕は担架の上のゆめの手を握る。救急車の付き添いはして良いそうだが、怪我の具合など詳しくは家族に説明するらしい。僕は、あくまで戸籍上は他人なのだ。
そして、搬送先も決まって救急車が出発する。
僕はおじさんとおばさんに電話するが、やはり忙しい二人は出ない。まさか娘がこんな目に遭ってるなんて知らないから。
その頃には警察も来て、沢田さんはそっちにも事情を説明するらしい。付き添いは僕だけ。
ゆめは僕だけで不安じゃないかな。おじさんとおばさん、はやく出てくれないかな。でも、このまま二人が出なかったら…僕がずっと付き添っていられる…?
「ゆめ、僕がいるからね」
ぎゅっと、その手を握る。ああ、そんな目で見ないで。不安なことはないよ。僕がいるからね。
「ゆめ、そばにいるよ」
頭を撫でる。良い子。大丈夫だよ。
…ああ、でも。
あの女を殺し損なったのは、やっぱり惜しいなぁ。
「…ごめんね、ゆめ」
僕のせいで巻き込まれて。
僕のせいで怪我をして。
それなのに僕は仕返しすらまともにしてあげられなかった。
「ごめんね…」
…僕は、ゆめのために。
なにをしてあげられるだろう。




