第23話 盗掘ビジネスの成算
書き溜めが尽きそう
僕は労働動物の盗掘現場を見ちゃったわけだね。
彼らに同胞としての躊躇がなければ、もう少しで労働中に行方不明になるところだった。
ひょっとすると、査察官の訪問も盗掘者の監査だったとか?
悪い方向に想像をすればきりがない。
…だけど本当にそうだろうか?
僕の知能化されたタコ脳が仮説に疑問を抱がせる。
よくよく考えると、リン酸なんかを盗掘してどうするつもりなんだ?
人間が汲み上げるはずの資源を横からかっさらう。
そこまではわかる。
労働動物は資源を手に入れる!人間の搾取からの脱出だ!
とはならないよね。
資源を得た後でどうしているんだろう?
海水中に含まれるリン酸なんて、量を集めて凝縮して高度に加工しないと輸出品にならんだろうに。
それとも高濃度の水をそのままどこかに持って行くのかな。
海水中でタンクとかを引っ張って?
まあ物理的に不可能ではないけれど。
まさかね…
リン酸資源の盗掘は、地球でいうところの原油泥棒みたいなもので、一見すると儲かりそうに見えるけれど実際の現金化には大規模設備投資やら高度な化学処理が必要で、やってみたら結局のところ全然儲からないビジネスに思える。
タコとイルカが組んだぐらいで、どうやって利益を出しているんだろう?
もしかして裏には別の人間か機械化人がいたりするんだろうか?
それにしたって簿外の巨大設備が存在したら、エンケラドスみたいな小さな星でごまかせるとは思えないけどなあ。
上司の好意的な反応を見ると、明日も僕は同じ海域に送られると思うんだよね。
ダイビング・ポイントは、もう少し盗掘地点に近い場所になるだろうから、また盗掘者達に遭遇するリスクは高い。
再会は平和的に、とは期待しないほうが良いだろう。
作業中に行方不明、になりたくなければ僕は明日の仕事までに身を守る術を用意しないとならない。僕は毎回、こんな風に追い込まれて緊急対応ばかりしている気がする。でもなんとかするよ。僕は賢い頭足類だからね。
実のところ方法は2つある、と思っている。
1つ目は上司に全部バラす。盗掘の件を信じてもらえるかはわからないけれど、何か僕を守る手をうってくれるかもしれない。
報告を信じてもらえる確率 ✕ 僕を守る手をうつ確率 = 40% ✕ 30% = 12%ぐらい?だいぶ望みが薄いなあ。僕は88%の確率で死ぬ。
2つ目はウィリーに護衛を頼む。何らかの代償を払えば手助けしてくれるかもしれない。一応、代償にはあてがある。それを用意できるかどうかは賭けなんだけど見込みはある。こちらの方がなんとかなりそう。
ようやく基地が見える深度まで上昇してくると、ちょうどよくウィリーがいた。
お金持ちイルカだ。
先日の監査官マネーで重くなった財布を軽くしてあげようじゃないか。
『ねえウィリー。海老、食べたくない?それも、おっきくて人間が食べているみたいなすごいやつ』
『食べたい!』
『じゃあ運動プールに連れて行ってくれる?そこじゃないと注文できないんだ』
『うーん…いいキュ!』
とりあえず掴みはOK。
あとは結果を…御覧じろ。




