第19話 賢いタコは鶏と卵で悩む
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失敗したなあ。
そう。僕は賢い頭足類なので失敗は失敗と認めることが出来る。
敗北を転進と言い換えたりはしないよ。
ちゃんと戦略の変更を迫られている、と言い直そう。
さて。僕なりに今回の「人間に愛想よく振る舞ってペット枠に昇格しよう作戦」失敗のーー違った。戦略の変更ーーを迫られた要因を分析してみようと思う。
要因その一。前提条件の見誤り。
僕は僕という元庶民の人間性を基準に考えすぎていた。
僕は庶民だから何かをしてもらったら何かを返さないといけないと感じる。
親切にされた相手には親切にしたいと思う。
心理学では返報性とかいうんだっけ?
だけど今回の対象となる人間は、僕の知っている人間であって人間ではないんだ。
とてつもなく高くそびえ立つ社会階層のトップの中でもトップの人間なんだ。
高貴な人や、ものすごくモテる人なんかにありがちなことだけれど、そうした人は何かをしてもらうことが当然であって、何かを返そうなんて考えないんだよね。
親切は彼らにとって空気のようなものなので、自然現象に感謝したりはしないんだ。
一方で、自分の気まぐれには正直で、可愛いものや好きなものには、ぽんと大金を支払ったりする。
それこそ可愛いイルカなんかにはね。
要するに、高貴な人間には親切にしても返報性は期待ができないし、ぬめぬめ派の労働頭足類には、気まぐれの親切という資源を受け取れるチャンスが少ない、ということだね。
低確率の事象かける低確率の事象の答えは、つまりはそんな偶然には期待できないってことだね。
要因その二。親切を受け取る条件の未整備
親切や同情という資源を最適のタイミングで受け取るには、受け取る側にも体制や準備が必要なんだよね。
震災ボランティアとかでも、震災直後に人が大勢押し寄せてしまったり、古着や内容物が不明な段ボールを大量に送りつけられてパンクしてしまったりしたことがあったよね?
要するにプロセス整備とバッファーの問題なんだよ。
親切にしようかな、何かをあげたいな、という気持ちが変わらないうちに資源や現金に引っかかりなく僕へ届ける仕組みを整備しないといけない。
ものすごく極端なプロセスをイメージするならば、僕が「タコが困ってます!助けて!募金はココへ!」という看板を掲げてみせて、憐れんだ人間が光信したら100万AWがその場で直ぐに僕に振り込まれる、という形が望ましいわけだね。
こうやって極端なプロセスを想定して考えてみると、僕に絶対に必要なものが見えてくる。
それはAWを受け取れる口座だ。
現金を稼げない身分から脱出するためには、現金を受け取るための口座が要る。
でも現金を稼げない身分だからそもそも口座が作れない。
移民が部屋を借りるために銀行口座を作ろうとしたら住所が必要で詰む、なんて話を聞いたこともある。
あとはホームレスが生活保護を受け取って部屋を借りようとしたら住所がないので受給の要件を満たせないとか。
要するに手続き上の落とし穴なんだよね。
この鶏が先か卵が先かの問題を解決しないと、僕は奴隷身分から抜け出せないわけだ。
さて。この矛盾をどうやって解決したものかな。
だれか、無敵の盾と無双の矛を売っている商人を論破した人を読んできてくれないかな?




