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わがはいはタコである   ー宇宙の果てで働く転生タコは人間になりたいー  作者: ダイスケ


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第16話 おやつを買ってみたぞ

書き溜めが尽きるまでは毎朝更新です

 とまあ、そんなことがありつつも。


『誰だお前?』


『タコは頭悪い!ウィリーをもう忘れた!』


『いや忘れてないけど…その見た目はどうしたんだ』


 ウィリーの体色が真っ白になっているんだけど。

 さっきまで背中が灰色っぽい体色の普通の配色パターンのイルカだったよね。

 まさか変な薬飲んだりした?


『運動中はスーツを脱ぐの!』


 あのイルカ色はスーツだったのか…サイズは変わったように見えないので生物の皮膚感まで再現する薄いスーツを着ていたことになる。かなり高度な技術と手間がかけられているな…。


『でも、あっちで泳いでいるイルカの背は灰色っぽいぞ。彼らはスーツを着たまま泳いでいるのか?』


 遠くに見える2、3頭の運動しているイルカの背中は灰色に見える。

 少なくとも白一色のウィリーとは違う。


『ウィリーは特別キュー!あいつらとは違うの!』


 うーん。一般のイルカの色が白いというより、ウィリーが珍種であるという方が事実らしく思える。自分は特別だというウィリーの言葉を信じるなら、ウィリーはイルカ社会の中でも上層階級だったりするんだろうか?

 他にも見渡せば広く深い透明度の高い運動プールには、以前ウィリーが持ってきた輪っかやボールと似たものが幾つか人工太陽灯の影を造りながら浮いている。


『遊び道具か…ウィリーはあれを買ったんだっけ?』


 イルカは働けば報酬が貰えるから、おやつや遊び道具も買える。

 それが例え太陽系最果ての星であったとしても。

 たぶん3Dプリンタ的なやつで出力したものだと思う。

 地球から運んでくるのは運送コスト的に無理だろうし。


『ふふーん。ウィリーは賢いから教えてやるキュー』


 マウントの機会を得たからか、途端に上機嫌になったウィリーが僕をプールの壁の一角に連れて行いった。そこの壁には幅30cm程度の赤い線で2メートルぐらいの正方形が描かれている。


『おやつが食べたいキュー』


 ウィリーが赤線で囲まれた壁に向かって光信を送ると、枠内にアニメ調の魚の画像が幾つかパラパラと表示された。

 幾つか種類があるみたいだ。「自称」貝であるところの、カスタネット飯しか選択肢がない僕の食事とはえらい違いだよね。

 画像メニューの中から最も大きい魚 ── サーモンと書いてあった気がする ── のシンボルをイルカが口吻で突っつくと「ピロン♪」と音が鳴り、壁から30cmほどの魚っぽい何かが飛び出してきた。


『サーモン…か…?いや違う…?」


 ジッと観察しようとしたのだけれど『おやつ!』とイルカが勢いよく咥えて飲み込んでしまったので、細かいところまでは見えなかった…。

 けれど、どうもサーモンそのものではなかったように見える。

 同時にピロンと決済の音がして40AW(アクアワット)と表示された。

 アクアワットという通貨単位、いまだにちょっと慣れないな。

 どのくらいの感覚なんだろう?サーモン味のおやつ一匹だから1000円ぐらい?もうちょっと値段は上か?とすると1AWで30円ぐらいだろうか?よくわからない。


『もう一回、注文してもらえる?買い物を見たこと無いから不思議なんだ』


『仕方ないキュねー』


 僕が下手にでてお願いをすると、ウィリーは快くお願いを聞いてくれた。

 意外とチョロいところもある。

 40AWという価格は、ウィリーからすると大した値段ではないらしい。


 もう一度注文された自称サーモンを今度は観察する時間があった。

 ピチピチと動き海中を泳ぎ始めてはいたけれど、安っぽいビニール人形のような見た目というか…生き物っぽくはなかった。

 たぶんカスタネット貝と同じく、魚のすり身味の動く餌なんだろうと思う。

 サーモン風味の味ぐらいはついているのかな。

 注文して食べるところは見せてもらえたけれど、分けてもらえなかったので味はわからない。


 注文メニューの画面には隅に例の質問に答える青いイルカも映っていた。

 こいつどこにでもいるなあ。


 ふと思いついて光信で質問をしてみた。


『今注文した魚は本物の魚ですか?』


 くるりんとあざとく回ってみせた後、青いイルカは饒舌に質問に答えてくれた。


『はい。イネバ社製のネオ・フィッシュシリーズは本来の魚以上の栄養素を含むスーパーベースフードです。魚に含まれる23種類の必須栄養素に加えて知的なイルカに必要なDHAを添加したセミオーガニックフードでもあります。食欲の本能を刺激するためオーガニック筋繊維による挙動テクノロジーで実際の魚の動きを97%の精度でシミュレーションしています。参考になりましたか?』


 人はウソを付くときに饒舌になるという。

 この質問イルカは嘘は言っていないが正しい情報を隠す喋り方をするのが気に入らない。

 まあ要するに魚は偽物ってことだね。

 たぶんカスタネット飯を作っているところと同じメーカーだろう。


『サーモン・テーストの他に、ツナ・テースト、タラ・テースト、サバ・テーストもございます。お一ついかがですか?』


 通販で何かを買ったときに表示される「この食品を買った人は次のような食品を購入しています」のと同じように、他の人工魚餌が画面上でリコメンドされた。

 通販サイトの表示ロジックは未来でも変わらんのだなあ、と呆れながら見ていると「カテゴリ:魚」との表示に気がついた。

 魚というカテゴリがあるなら、他のカテゴリもあるんだろう。


『貝と魚があるなら…エビとかもある?』


 と光信で聞いてみると『ございます』との返事。


『僕も買える?』


『市民コードが取得できません。もう一度光信を行ってください』


 ああそういう…。考えてみれば三種労働動物に財産はないのだから決済もできるはずはないか。

 

 『じゃあ見ることはできる?』


 『可能です』


 残念なことに買えはしないけれど好奇心でエビメニューを表示してもらうことにした。

そうして表示されたエビ一覧の種類の多いこと!オキアミ・テイストからロブスター・テイスト、ビッグ・イセテイストなんてのもある。最後の伊勢海老か…?大きすぎて殻を砕いて食べるのは難しそうだ。

 僕がぼんやりとメニューを眺めていたら、猛烈な勢いで突っ込んできたウィリーに尾ビレでぶっ飛ばされて目を回した。


『エビ!?エビって言ったキュ!!』


『お、おう…。なんだエビ食べたいのか?』


『エビ!食べる!!エビ!!』


『あー。たぶん、ここの印をウィリーが押せば注文できるぞ。ロブスターでいいか?』

 

『エービィ!エービィ!エービィ!』


 ウィリーの勢いにちょっとドン引きである。

 何度も注文パネルを突ついていた。

 えぇ…。なんでそんなにエビを食べたいんだ。

 価格は1つ60AW。サーモンより高い。


 壁から三連続で15cmぐらいのエビっぽい何かが放出されるや、ウィリーがパクリと、ひと噛みでエビもどきの群れに食いついてもきゅもきゅと丸呑みにした。

 

 『そんなに美味しい?』


 『おいしいキュー!エビはごちそうだキューゥ!!』


 どうなんだろう?僕にはエビもどきとサーモンもどきの違いがよくわからない。

 想像するに、カニカマっぽい味なのだろうか。

 猫のオヤツのようにイルカを狂わせる成分でも入っているのだろうか?


 たぶんエビがメインメニューに表示されていると、それしかイルカが食べなくなるから隠しメニューのような位置づけにしてあるんだろうね。


 イルカはエビに目がない。人はイルカにエビをあまり食べさせたくない。


 これは何かの取引材料になりそうな気がする。

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