特別編:ギャラリー『gift』⑦
今回は恒例の特別編第七弾です。
例によって本作にいただいたファンアート等を紹介させていただきます。
今回紹介するのは「砂臥 環」様からお正月にいただいた賀正イラストと、「シンG」様からいただいた優子のイラスト、「べべ」様からいただいたSSになります。
みなさん、その節は誠にありがとうございました!
「砂臥 環」様の、
「とにかくイケメンな女子・クラスメイトの日向さんからの告白をうっかりスルーした結果」
https://book1.adouzi.eu.org/n0222gj/
「シンG」様の、
「塩が神と出会う時、青春は色づき動き出す」
https://book1.adouzi.eu.org/n7803ft/
「べべ」様の、
「おっさん冒険者は、モフモフ兎と入れ替わって新人ショタ冒険者を育成中」
https://book1.adouzi.eu.org/n3474fi/
も、是非ご高覧ください!
「あ、こんなところに『gift』が」
「え? ……ギッフリート!?!?!?」
とある放課後。
下校しようとまーちゃんと二人で廊下を歩いていたところ、なななんと、本来なら保健室があったはずの場所に『gift』が出来ていた。
以前裏庭に『gift』がある日突然出現したことがあったけど、遂に校内にまで……(そういえばあの裏庭の『gift』は、次の日には煙みたいに消えてたっけ……)。
てか、これ養護教諭の優子はどうなってるんだろう?
この中にいるのかな?
「『gift』は久しぶりだね! 大分ファンアートも溜まってるかも」
「まーちゃん!?」
まーちゃんは当たり前のように『gift』に入ろうとしている。
この状況に何の疑問も抱かないのかい君は!?!?
何これ僕の感覚がおかしいの!?!?
「さあともくん、入った入った~」
「ま、まーちゃんッ!!?」
まーちゃんはおっぷぁいで文字通り僕を手玉に取って(!?)、『gift』の中にご招待してくれたのだった(迫真)。
「画廊だああああああヒャッホー!!!」
「最早懐かしいノリ!!」
何せ前回まで、二ヶ月以上もとんでもない大会やってたからね!(メタ発言)
「さてさて今回のファンアートは、と。――およよ!?」
「え? ――ニャッポリート!?!?」
僕は絶句した――。
そこにはこんな絵が飾られていたからだ――。
こ、これは……!?
完全にアレだよね!?!?
誰もが知っている、世界的なネズミの彼女さんだよね!?!?
「あー、なるほどねー。今年は子年だから、それ用のお正月イラストって感じなのかな」
至って冷静な分析!!
相変わらず僕の彼女のメンタルが強過ぎる件!!
「いやあ、でもいつもながらこんなに可愛く描いてもらっちゃって照れちゃうなあ」
まーちゃんは頭を掻きながら頬をほんのりと赤く染めている。
確かにね。
もちろんまーちゃんは元々可愛いけど(隙あらばノロケ)、このイラストはそのまーちゃんの可愛さを120%引き出している。
まーちゃんだけじゃない。
篠崎さんも着物姿がドチャクソ似合っている――!!
こりゃ勇斗が見たら鼻血ブー(死語)確定だな。
……ん?
誰だ今、篠崎さんはちっぱいだから着物が似合うなんて言ったのは!?(言ってない)
「およよよよよ!?!? こ、これって……!?」
「え? ――よっぽりーと!?!?」
僕とまーちゃんはその隣の絵を見て目を見張った。
遂にこいつのイラストがきてしまったか……。
それはこんな絵だった――。
エッッッッ。
優子ーーーーーー!!!!!!!!!!
しかも羊モードの優子じゃないか!!
うわあ、こうして改めてイラストで見ると、せくしぃ感が半端ないな……。
こんな女が養護教諭やってるってんだから世も末だよ(白目)。
それにしても、スタイリッシュなキャッチコピーも入れてくれてるし、まるで劇場版アニメのポスターみたいだな。
まーちゃんのイラストを描いてくれた人も相当だけど、このイラストの作者の方も美的センスの塊だ。
そういうセンスがゼロの僕には、最早次元が違い過ぎて嫉妬心すら湧かないよ。
「うふふ、なかなかキュートに描いてくれてるじゃなあい」
「「――!!」」
その時だった。
聞き覚えのある声がしたので振り返ると、案の定そこには優子が顎に手を当てながら科を作って佇んでいた。
「優子!?」
しかも優子はこのイラストと同じく、羊モードになっている。
「い、今までどこにいたんだよ」
「うふふ、控え室で休憩していたのよ。今日の私はこの画廊の職員だからね」
「「職員!?」」
どゆこと!?
「それは私からお話いたしましょう」
「あっ! ……マサキさん」
オーナー登場。
「実は無理を言って、今日一日だけ保健室を貸していただいてるんですよ」
「一日だけ!?」
そ、それは、何のために……?
「もちろんお二人にファンアートを見ていただくためです」
「「……」」
そんな……、僕とまーちゃんにファンアートを見せるためだけにこんな大掛かりなことを……。
やっぱりこの人、いろいろとおかし過ぎる……!
「そして今日一日だけの臨時職員として、優子さんに働いてもらってるって訳です」
「うふふ、まあ、他でもないマサキちゃんの頼みだものね。無下には出来ないわよ」
「ハハハ、恐縮です」
え?
もしかしてこの二人って前から知り合いだったりするの?
……いったいどんな関係なのかな。
怖いから聞く気にはならないけど……。
「うふふ、さあ二人共、今日は何と、イラストだけじゃなくこんなものもあるのよ」
「「え?」」
そう言うなり優子は、一冊の薄い本を取り出した。
こ、これは……?
「読んでみて」
「……はぁ」
「あ、私も一緒に読みたーい」
「まーちゃん!?」
まーちゃんは僕に身体を密着させてきた。
例によってまーちゃんのふわふわメロンパンが僕の腕にむにゅんむにゅん当たっている……!
むにゅんむにゅん当たっている……!!
大事なことだから二回(ry
い、いや、今はそれよりもこの本を読まなきゃ。
それはこんな内容だった――。
【楽しい学園生活 ~岩を添えて~】
恋とは、常に周囲に変化をもたらすものである。
愛とは、常に互いを燃え上がらせるものである。
ここが学園という場所であり、彼等が学生という青春を謳歌する事を生業とする種族であった場合、その変化と燃焼は相乗効果を生み更に大きなものとなる。
「ま、まーちゃん……ダメだよ、イケないよ!」
「ふふふ……そんなこと言って、少しも抵抗しないじゃない、ともくん?」
「あああっ、そんな奥まで……! だ、ダメだよ、ニャッポリート出ちゃうよぉ……!」
「ほらほら、もう少しで全部入っちゃうよ?」
「あっあっあ……!」
肘川北高校。
生徒を抑圧しない自由な校風が売りであり、その結果として世紀末もびっくりの無法地帯と化している高校を舞台に、2人の男女が悩まし気な声を上げた。
これが人気のない路地裏や、どちらかの寝室というのならばさもありなんと言うべきR18案件であるのだが、ここは未だ数十人の生徒が存在する昼休みの教室である。
必然、この声と状況を総合的に考えれば……そこ、よりアブノーマルな展開を想像しない。
「だ、め……ダメだよまーちゃん! それもう10本目だよぉ……!」
「男の子でしょう? 目をそらしちゃダメ。さ、ほら……よく見て」
「あ、あ……ニャ、ニャ……!」
声の主である少女は、相方の少年が瞳を塞ぐように顔を手で覆ったのを見て、ゾクリと背筋を震わせる。
彼の手を握り、圧倒的な力の差を見せつけるように引き剝がす。「あぁっ」と少年の口が開けば、上下の唇が離別を惜しむように唾液の橋をかけた。
頬には赤みが差し、瞳は困惑を宿しながらも、目を反らすべき接合部に視線を向けてしまう。どこか中性的な顔立ちは、逃れられないという絶望よりも、別の何かによって歪められていた。
少女は悪戯な瞳を細め、少年の耳に口を近づける。「ほら、あと少し」と甘い声を鼓膜に受け、少年はもはや瞳を閉じる事などできなくなった。
「いい子。ほら……入るよ? 頑張れ、頑張れ♪」
「ニャ、ニャ……!!」
やがて、少女が指で弄んでいた棒は、穴に運ばれて行く。
臨界点を突破寸前だったそれは、すんなりと受け入れられ……そして、限界を迎えた。
「ニャッポリートぉぉぉおお!?」
びよよ~ん!!
「あちゃ~! やっぱり私の負けだ~!」
「んもぅ! まーちゃんは躊躇が無さ過ぎだよぉ! 僕ドキドキが止まらなかったんだからね!」
めった刺しにされた、樽型のボディ。そこに最後の棒が差し込まれた事により、頂点に君臨していた者は空高くに打ち上げられた。
ひと時の遊覧飛行は終わり、それは少女が伸ばした掌にすぽりと収まる。
「あははっ、私が負けそうだったのに、ともくんったら私以上にハラハラしてるんだもん! 可愛かったよ~?」
「なっ、そん、そんな事言われてもしょうがないでしょう!? まーちゃんがヤケに迫真の演技で焦りを誘ってきたんじゃないかぁっ」
どこか小憎たらしい笑顔のヒゲおやじを少年に手渡しつつ、少女はごめんごめんと笑みを深めた。
この樽とおやじが何を意味するか。それは今この文面で語る訳にはいかない。しかし、敬虔なる読者諸君が先ほどまで想像していたR18的ナニガシとは全く違う何かだというのは断言させてもらおう。
「あぁん! もうっ、拗ねるともくんもカワイイよ~!」
「わひゃぁ!? まままままーちゃん!? おっ、おっぷぁ……!?」
ともくんと呼ばれた少年を、まーちゃんなる少女が抱き寄せる。
もはや覆いかぶさると表現した方が良さそうな程に熱い抱擁は、少女の豊満なおっぷぁい(原作者リスペクト)に少年の顔面をはさみ込む結果となった。
「…………」
この少年少女が一体何者であるのか。それは、原作者の手掛ける歴史的暴走ラブコメディ【明らかに両想いな勇斗と篠崎さんをくっつけるために僕と足立さんがいろいろ画策する話】を参照して頂きたい。
そして、以下からは、日本が誇るべき人材である読者諸君がその原作、かつレビュー文を読んで来た事を前提に語らせてもらう事とする。
……読んできてくれただろうか。ならば、続きといこう。
かの光景を見ていたクラスメイトの感情は、いかばかりか。
改めて眺めてみれば、その反応は大きく4つに分けられる。
一つ。祝福に涙腺を緩める聖人。
一つ。いつもの光景にもはや目も向けない兵。
一つ。羨ましさと嫉妬により積み重なる怨嗟と嫉妬の視線。
そして、最期の一つは……。
「…………」
殺意。
それは、まごう事無き殺意であった。
公共の場をピンク一色に染め上げるバカップル(褒め言葉)を見つめながら、ギィギィと椅子を鳴らしつつ、一人の少年が立ち上がる。
見た目は……普通の人間だ。中肉中背特徴無し。目元は前髪でよく見えないものの、けして崩れてはいない顔立ち。
その人物は懐に手を突っ込むと、ごそごそとその中を漁り始める。
やがて、その手に握られた「何か」をゆっくり、机の上に置いた。
ゴトッ
大きさにして、約18cm程であろうか。
掌でようやく持てそうな大きさのそれは、形が歪であるが故に、ようやく少年の手でも握ることができる。
黒々と輝きを放ちつつ、けして華やかではない。されど、全人類が発展してきた歴史とは、切っても切れない存在。
そう、「岩」であった。
(やるのか……)
(やるのか……B……!)
少年が今後、新聞の一面を飾るやもしれない可能性を考慮し、この場ではBと呼称しよう。
B少年は、一度机の上に置かれた岩を撫で、握りやすい部分を探す。やがて、しっくりきた所でようやく、その指に力を込めた。
重量にして1.5kg。ともすれば人類の脆き頭蓋など粉みじんに粉砕せしめる重量と硬度だと言えよう。B少年がしっかりと目利きした選りすぐりであるが故に、その性能は折り紙付きだ。
((やってくれるのか、俺らの為に……!))
教室内の全、モテない男子生徒諸君の期待を胸に、B少年の前髪に隠れた瞳が燃える。
天誅とは、悪逆非道の不埒者に対して天が堕とす罰だという。ならば、少年が今から下すは人誅と呼ぶべきか。
片足を持ち上げ、岩を握る手は胸元に。見つめるは目の前のカップル。それ以外は全てシャットアウト。
腕を一本のカタパルトとし、しなりを付けながら更に勢いを加速させる。
持ち上げた足を思い切り床に踏み込めばそこを力の起点とし、腕ではなく体全体を使った投球となる。
オーバースロー。全ての野球少年ならば見ただけで惚れ惚れとし、スカウトが見れば耳に挟んだペンを取り出しメモを走らせ始める程の、それは見事な投球フォームであった。
空気抵抗や弾の重さ、諸々を全て計算し、確実に目標の頭部に吸い込まれると確信を込めた一球が、今解き放たれ――――
「お~いB~」
――――る、事はなかった。
「っ」
「うわ、危ねっ」
Bの目の前に悠然と現れた人物。
その人物は、ポケットに手を突っ込んだままに足を持ち上げ、Bの腕とその足をクロスさせた。
体勢で言えばハイキック。しかしどこか余裕を孕んだその受け止めは、主人公の師匠ポジか気だるげ系ラスボスにしか許されない防御法である。
結果、Bの握った岩はあらぬ方向へ。
飛来するそれは、窓際で読書に励んでいた眼鏡女子の鹿ノ上さん(愛読書はぶるうちいず先生作:【俺達の汚れ無き春】)がノンルックに開け放った窓からアイキャンフライして行った。
どうやら、この作品がバイオレンスサスペンスに変更されるような展開は、避けられたようである。
「……何の用だ、A」
「いやお前! 今思い切り岩投げようとしてたよね!? 対応違くない!?」
「お前を狙った訳じゃない」
「誰狙っても危ないからね! まったく、俺が止めてなかったらどうなってたか!」
Bの暴挙を止めた少年。仮にAとしておこう。
Aもまた、どこにでもいる普通の少年であると言える。快活な雰囲気を感じさせ、誰とでも仲良くなれそうな少年だ。
当然、Bともまた友人同士である。でなければ、あそこまでの殺気を放つBに話しかける事は出来なかっただろう。
「……まったく、余計な真似をしてくれる」
「なんだよ~、昼休みなんだから友達誘うのは当然だろ? ほら、今日は何する? メンコか? ベーゴマか?」
遊びのセンスが古いと揶揄する者もいるだろうが、彼等は常日頃から2人かくれんぼで遊び合う仲だ。玩具を使うだけでも、その遊戯法は発展していると言える。
そして、そんな彼等を見て、各教室の腐敗した方々は「ご馳走様です!」と拝み、友情を尊ぶ人々は「素敵!」と頬を緩めているのだ。
「いや、悪いなA」
「あ?」
だが、今日のBは違った。
いつもならば、1度Aに阻害されれば行動を止めるB。しかし、今の彼の手には更なる岩(花崗岩)が握られている。
「今日の俺は、この衝動を抑えられんらしい」
「おいおい、本気かよ?」
それに対し、Aもまた顔を引き締めた。
Bの視線にある、未だ抱擁を続けるまーちゃんとともくんを一度見て、小さくため息をつく。そして暴走の兆しを見せる友人に向かい合い、友を止めんと言葉を発する。
「大体、お前もアイツらに対して「はよくっつけ」って言ってただろ? やきもきしてたのに、いざ付き合うと嫉妬して岩投げるっておかしくね!?」
「……確かに、お前の言う通りだな」
敬虔なる読者諸君は、この作品の元ネタを既に読んでいる事だろう。ならば、その作品のレビュー欄1番目を参照して頂きたい。
レビューの中にいた彼等は、くっつきそうでくっつかない2人に対してやきもきし、Bもまたふんぎりのつかないともくんに対して岩を向けていた。
しかし、いざ彼らが交際を始めた瞬間に修羅へ覚醒。その岩に祝福でなく怨嗟を込めて投げるようになる。
何が、少年を変えてしまったのか。Aはそれが、疑問でならなかったのである。
「そうだな、A。お前には言っておこう」
Bは、真っすぐにAを見つめる。
その声には、重たい重たい、響きがあった。
「先人たちの残した名言の数々に、こんな言葉がある」
「…………」
小さく喉を鳴らすA。
自分たちの世界に浸っているカップル以外の生徒たちが、耳を向ける。
そして、どこか潤いのある唇を開き、Bは続けた。
「それはそれ……これはこれ」
「「!?」」
「妬ましいものは、妬ましいんだよ」
「浅っ!?」
「「あっさ!?」」
本当だよ。
「そう! そうだよ!」
「良く言った! よく言ったぞ、Bぃぃ!」
「ぐすっ、お、お前は……俺達のヒーローだぁ!」
だが、意外にもその浅さは一定の層に響いたらしい。
当然、それは妬ましグループの男子達だった訳だが。
「ちょっと男子ぃ! 感銘受けてる場合じゃないでしょ!?」
「あぁん!? お前に俺達の何がわかんだよ! それとも何か? お前が俺と付き合ってくれるっていうのかよ!?」
「え……」
「あ?」
「……べ……別にっ! その……アンタが、良いんなら……」
「え、そ、それって……」
「……鈍いのよ、ばーか」
一瞬後、彼のこめかみに岩(黒曜石)が飛来した。
「っぶね!?」
その岩を、寸前で受け止めるA。彼の手には、分厚さ少年誌No1と名高い転々コミックが握られている。
「うおぉぉぉ!?」
2発、3発と岩(金剛石)を受け止め、ついでにまーちゃんとともくんにも放たれたそれを撃ち落とす。
彼の救命ショーの甲斐あって救われた男子は、ツンデレ女子と手を取り「あはは、あはは、あははははっ」と声明。笑顔のまま教室を後にする。新たなアホが生まれた瞬間である。
「……チッ、今ので岩のストックが尽きた」
「お前さぁ~、ほんと、止める方の身にもなれよぉ!」
「いつも悪いな」
「おう、今後ともよろしくな、親友!」
この瞬間、全生徒はAに対して「天使か?」という評価を下した事だろう。
「……だが、今回は俺の勝ちだな」
「あ?」
Bの視線は、ゆっくりと窓の外に向けられる。
Aもまた、その視線を追った。
「っ!」
背筋に寒気が走る。
その視線の先……校庭には、あり得ない光景が広がっていた。
「こ、校長先生の、石像……だと!?」
そこには、ナイスフェイスでピースサインを決める校長先生の像を吊るす、クレーン車が存在していた。
クレーン車は左右に車体を振っており、石像に対して遠心力を込めて行く。それにより、石像は破壊の化身と化していた。
そして狙いは、間違いなくこの教室に向いている。
「B! これは一体……!」
「ふ……土木研だよ、A」
「土木研!? どうやって……」
土木研。
建築を学ぶために集まった面々が、私有地により運転可能となった重機を用いて様々な芸術的建物を生み出すこの組織。
今年長となった田中権三郎くん(通称青髭ゴリラ、18歳)を中心に、座右の銘は「俺達に女はいらない」を胸に日夜戦うこの組織を、どのように説得しあのような暴挙に導いたというのか。
「簡単だ。一言彼等に教えただけだよ……『あそこにリア充がいるぞ』、と」
「っ!」
何という魔法の言葉か。
そんなものを聞いてしまえば、確かに納得せざるをえない。
彼らは、なるべくしてアヴェンジャー(復讐者)となったのだ。
「行かないのか? もうすぐでここに岩が飛んでくるぞ」
「チッ!」
Aは教室を飛び出した。
雷が如き速度で走り、校庭へ向かう。
そこには、瞳に涙を浮かべたゴリラ達が「おっかさんの為ならぁぁえぇぇんやこぉぉらぁ!」と声を揃えていた。
揺れるクレーン、振られる石像。
射出までは、あと5秒。
果たして、これを止める術が彼にあるのか……
「おぉっと!」
Aは、懐に手を突っ込む。
奇しくもその姿勢は、岩を取り出す時のBと酷似していた。
「しまったぁ! 変公の隠し撮り生着替えブロマイドが散らばってしまったぁぁあ!」
「「っ!?」」
Aが声と共にばら撒いたのは、数枚の写真。
それは彼の言う通り、常日頃からセーラー服に身を包んだ変態教師が、着替えを行っている写真であった。
何故か全て、ふてぶてしい笑顔のカメラ目線でギリギリ見えないポージングを取られているが、気にしてはならない。ならないったらならない。
「「うぉおぉぉぉおおおおお!」」
他人を平気で実験のモルモットにする狂人でも、あのプロポーションと美貌ならば一定の需要はある。
ましてや、それが女からは程遠い汗と涙の土木研なら尚更だ。
盛りのついたゴリラ達は全員、野太い声を上げてばら撒かれた写真に突貫していく。そこには、クレーン車を運転していた田中権三郎くん(通称青髭ゴリラ、18歳)も含まれていた。
クレーンはその動きを止め、石像からは遠心力が失われていく。
A少年が、青き暴走を食い止めた、勝利の瞬間であった。
「ふぅ……あんなんでも役に立つんだなぁ。新聞部から没収してて良かった」
彼が新聞部から写真を没収できる立場にあった事が何よりの驚きだが、進めよう。
Aは自分たちの教室に目を向け、携帯を取り出す。弾薬が尽き、秘策も破られた親友の様子を伺ったのだ。
『……流石だな、A』
「お~B。お前凄い事するなぁ」
やがて、携帯からはいつもの、抑揚のない彼の声が聞こえてきた。
悔しさもなく、かといって落胆もない。あるのは、Aに対しての称賛だ。
「せっかくだから、グラウンド来いよ。今日は鬼ごっこにしようぜ~」
『あぁ、そうしよう。……これが終わったらな』
窓の向こうで、携帯を持つBが見える。
彼は、懐ではなく、ポケットをまさぐっていた。
Aの目が、徐々に徐々に、見開かれていく。
『隠し玉は、最後まで取っておくものだ、Aよ』
そこには、丸く小さく磨かれた、とっておきの一発(大理石)が握られていた。
「おいおい……!」
Aは走るが、もう遅い。
しっかりと握られた弾は、Bの親指の爪に乗せられる。
親指はそこを発射口とすべく、人差し指の第二関節へ。
その攻撃法は、指弾と呼ばれている。伝統的な暗殺手段としてナウなヤングにバカ受けだった時代も存在しており、「出来たらカッコいい事ランキング」では常に上位に食い込んでいる。
そんな指弾は今、おっぷぁいに埋まったままなんかぐったりしている少年の後頭部に向けられていた。
『今回は、俺の勝ちだな』
「っ……!」
そして、今。
凶弾は、放たれた。
回転を込められたそれは、真っすぐにターゲットへと推進する。
空気を切り裂き、やがては少年の首へと到達し、その細い骨を砕く事だろう。
時間にして、僅か1秒。その瞬間は、アッという間に訪れる。
「ん」
「……あ?」
勝利の余韻に浸っていたB。
しかしその余韻は、一人の人物により打ち砕かれた。
「なんだこれ、石?」
「どうしたの?」
「いや、虫かと思って捕ったら、石だったんだ」
おっぷぁいに顔を埋めていた少年に、向かっていた指弾。
それは、彼に近づいて来ていた長身の人物に掴まれ、動きを止めてしまっていた。
長身の少年は、小首を傾げて手を広げ、やたらと身長差のある美少女にその石を見せている。
「大理石だよね、これ。綺麗……つるつるしてる」
「落とし物、じゃないよな? 飛んできてたし。なぁ、お前らこれ知らないか?」
何を今更と感じる質問だろう。この場にいる面々は、一部始終をその目に焼き付けていたはずだ。
Bの策謀、Aとの攻防。そして、勝利の瞬間を。
だが、だがしかし、思い出して欲しい。Bが、「それはそれ、これはこれ」の名言を生み出した瞬間の文章だ。
そこには、『自分たちの世界に浸っているカップル以外の生徒たち』と、綴られている。
そして、原作を嗜んでいる紳士淑女の諸君ならば、このカップルに誰が含まれているかは、想像に難くないだろう。
そう、この教室にて己の世界を展開していたカップルは、2組存在していたのである。
「……誰も知らないのか? これが誰のか」
「「…………」」
ぶんぶん、と、全員が首を横に振るう。
当然だろう。今持ち主の名前を言おうものなら、後日背後から岩が飛来してくるのは確定的事実だ。
「……そう、か。ふむ」
「ど、どうしよっか」
「そうだな……先生に届けに行くか」
「ん、そうだね」
やがて、2人は教室を出て行った。ここで自分の物にしない辺り、徳の高さが見て取れる。
後日、変公の粋な計らいにより、少女の首にはこの大理石を用いたネックレスが飾られる事になるのだが、それはまた別のお話し。
「はぁ……はぁ……あれぇ?」
「Aか」
「血みどろバイオレンスサスペンスになってるかと思ったら、そうでもないな?」
戻ってきたAに対し、Bは肩をすくめてみせる。
それだけで、Aは全てを察したようだ。息をついた後、Bの肩に手を回す。
「人騒がせだなぁ、お前は」
「ふん、悪いな」
「んじゃ、罰としてお前から鬼な」
歯を見せて笑う親友。
その笑顔に、Bの心を満たしていた怨嗟は静まっていく。
「……フ、仕方ないな」
そして、彼等は教室を後にした。
残った生徒たち。ここまでの様子を見ていた彼等の反応は、大きく4つに分けられる。
一つ。「えぇ……」と困惑する一般市民。
一つ。「尊い……」と手を合わせる紳士淑女。
一つ。「なんじゃこのオチ!?」と嫉妬を空回りさせた男子諸君。
そして、残りの一つは……
「あれ? ともくん? ともくん?」
「…………………………(とても幸せそうな窒息顔)」
「と、ともくぅぅぅぅぅぅん!?」
終始周りを見ていない、バカップルであった。
完
いや大作だなおいッッ!?!?
これは俗に言うSSってやつかな!?
ファンアートだけにとどまらず、遂にSSまで……。
てか、僕とまーちゃんが黒ひ○危機一髪で遊んでいた裏で、こんなことが行われていたとは……。
実は僕が認識してないだけで、微居君ってちょくちょく岩投げてんのかな……?(戦慄)
「ふふふ、因みにこのSSを送ってくれた方は、絵井君と微居君の生みの親でもあるんですよ」
「「生みの親!?!?」」
どゆことですかマサキさん!?!?
「本当に……、いつもありがたい……」
「「っ!?」」
マサキさんは声を震わせながら、顔を両手で覆った。
ま、まさかこの流れは……!?
「本当に……、ありがたいよおおおおおおお!!!!! うわああああああああん!!!!!!」
「「っ!!!?」」
やっぱりだーーーー!!!!!
マサキさんの伝家の宝刀、『いい大人の号泣』だーーーー!!!!!
これも随分久しぶりに見たな(素)。
「うわああああああああん!!!!!! おーいおいおいおい! おーいおいおいおい!」
「「……」」
こうなっちゃうとどうしていいかわかんなくなるんだよなぁ……。
「うふふ、後のことは職員である私に任せて、二人は帰りなさい」
「あ、うん……」
そういうことなら、お言葉に甘えて。
「おーいおいおいおい! のわっさほーいほいほいほい!」
……今『のわっさほーい』って言わなかった!?
絵井「なあなあ、今日は黒ひ○危機一髪で遊ぼうぜ」
微居「フン、悪くないな」




