番外編その74:肘-1グランプリ⑦
「浅井さん、準決勝第二試合の抽選をお願いするだっちゃ」
「まただっちゃ!?」
そのキャラはもう一回やったよ!?
……余程ラ○ちゃんが気に入ったのだろうか。
それに今回も消去法で組み合わせは決まってるんだけど、また形式的にボールは引かなきゃダメなのかな?
まあいいか。
さっさと引いちゃおう。
僕が一つのボールを引くとそこには――。
「浅井さん、発表してくださいにゃん」
「にゃん!?!?」
今度は『にゃん』!?
もしかしてこれ、今までやったキャラ全部乗せなのかな!?
何その誰も望んでない大食いチャレンジ……。
昔のゲームってよく、ラスボス手前で今まで倒したボスキャラ達が再登場する展開多かったけど、それを思い出したよ(遠い目)。
「――梅先生です」
「フッ、さて、今回のモルモットは誰かな?」
いやもう誰かはわかってるだろ。
相変わらず白々しいやつだ。
まあ一応ボールは引くけどさ。
僕は抽選ボックスの中に一つだけ残っていたボールを手に取った。
当然そこには――。
「浅井さん、セイホ~オッ!!」
くるってわかっててもやっぱイラッとすんなあッ!!!
熟年離婚する人の気持ちってこんな感じなのかなッ!!?
「――熊谷さんです」
「押忍! 相手にとって不足はないっす!!」
熊谷さんてクジ運悪過ぎじゃない?
初戦が優子で、今回は変公。
相手が人外ばかりじゃないか……。
ある意味主人公気質なのかもしれないが。
「相模センパイッ! もちろん今回もこの勝利をセンパイに捧げるっすよッ!」
「いや、俺のことはいいから目の前の勝負に集中しろよ」
また熊谷さんと孝一兄ちゃんがイチャイチャしてる(呆れ)。
――ハッ!
その時だった。
校庭の端の方から、突き刺すようなドス黒い殺気を僕は感じた。
ま、まさか――!
その方向に目線を向けると、そこには――。
いったいどこで調達してきたのか――そしてどうやって担いでいるのか――元気玉サイズの巨岩を担いだ微居君が、のしのしとこちらに歩いてくる光景が広がっていた。
ゴックリート!?!?!?
よもや君は、ガチのサ○ヤ人なのか!?!?!?
……それとも、微居君のリア充を憎む気持ちが、あんなサ○ヤ人じみた力を出させているとでもいうのだろうか……。
だが、あんなのが投げられたらマジで大勢死人が出てしまうッ!!
幸いみんなステージに注目しているので、微居君に気付いているのは僕と絵井君だけみたいだ。
僕はそっと絵井君に目配せした。
絵井君は、「任せてくれ」とでも言わんばかりの頼もしい顔を一瞬だけこちらに向けたかと思うと、誰にも気付かれぬよう自然に、且つ最速のスピードで微居君のところに向かっていった。
頼んだよ、絵井君。
肘北の平和は、君の手に懸かっている――。
……よし、今の内に種目を決めてしまおう。
この二人はある意味両極端だからな。
知力の変公と、体力の熊谷さん。
頭を使う系の種目なら変公有利、身体を使う系なら熊谷さん有利といったところか。
果たして……。
僕が引いたボールに書かれていたのは――!
「浅井さん、種目を発表してほしいのわっさほーい」
「のわっさほーい!?!?」
そんな語尾のキャラいたっけ!?!?
ここに来てオリキャラを出すなよッ!!!
大食いチャレンジのデカ盛り丼で、丼の底の方に巨大なチキンカツが埋まってた時並みの絶望感……。
「――種目は、『クイズ』です」
「フッ、なるほどな」
「なっ!? ク、クイズっすか……」
これはヤヴァい……!
流石に変公に有利過ぎる……!
いつもは強気な熊谷さんも動揺を隠せないようだ。
「弱気になんな熊谷ッ! 勝負は蓋を開けてみるまでわかんねーだろ! 前向きなことだけがお前の取り柄なんだから、前だけ向いとけ!」
「っ! さ、相模センパイ……」
孝一兄ちゃん……!?
また孝一兄ちゃんがスパダリムーブをかましている……!
ふと微居君の方を窺うと、リア臭を敏感に感じ取ったのか、巨岩をその場で大きく振りかぶった。
危ないッッ!!!
――が、間一髪絵井君が微居君を羽交い絞めにし、ギリギリ巨岩は放たれずに済んだ……!
グッジョブ絵井君!
「それではルールを説明いたします」
田島さんのルール説明の時だけ素に戻るの何なの?
サイコパスなの?
「梅先生、お願いします」
「フッ、任せろ」
変公がスマホを操作すると、ステージ上に早押しボタンが付いた机が二台と、中央に巨大なパネルがせり上がってきた。
そのパネルには『10』『20』『30』『40』と縦に並んだ数字が、全部で5列書かれている。
ああ、クイズ番組とかでよく見るやつだこれ。
「今から全部で5種類あるジャンルのクイズを出題いたしますので、早押しで答えていただきます。それぞれ問題は『10』『20』『30』『40』と4問ずつあり、数字がそのまま獲得点数になります。当然数字が上がるにつれて問題の難度も増します。尚、問題は『10』からしか選べません。『10』を答えたら『20』、『20』を答えたら『30』という具合に、一つずつ選べる数字が上がっていく仕組みです。そして全問回答した時点で、点数が高かった方の勝利となります」
なるほど、オーソドックスなルールだな。
……でも。
「田島さん、パネルにジャンルが書いてませんけど、ジャンルは何なんでしょう?」
「はい、公平を期すために、ジャンルは峰岸先生と熊谷さんに、2つずつ好きなものを言っていただきます」
「好きなものを!?」
「はい、ただ列は全部で5つありますから、最後の一つはノンジャンルとします」
はー、そういうことか。
それなら熊谷さんにも、目はあるか?
「それでは先ずは峰岸先生、ジャンルを2つ発表してください」
「フッ、では私は、『科学』と『拷問』で」
いかにもなやつキタッ!!!
自重しねーなお前ッ!!!!
「では次に熊谷さん、ジャンルをどうぞ」
「はいっす! ジブンは『空手』と『鳩尾』でお願いするっす!」
『鳩尾』!?
『空手』はわかるにしても、『鳩尾』って……。
そんなに『鳩尾』にこだわりがあるの熊谷さんは?
ふと孝一兄ちゃんを窺うと、孝一兄ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
なんだろう……、『鳩尾』に嫌な思い出でもあるのだろうか?
「承知いたしました。ジャンルは『科学』『拷問』『空手』『鳩尾』『ノンジャンル』の5つとなりました。因みに問題を選ぶ権利は一人ずつ交代になります。先ずは峰岸先生から問題をお選びください」
「フッ、では『拷問』の『10』で」
いきなりかよ。
「『拷問』の『10』ですね。それでは私が問題を発表いたしますので、早押しでお答えください」
「ちょ、ちょっと待ってもらえますか田島さん!?」
「ん? 何ですか浅井さん?」
「今ジャンルを決めたばかりなのに、問題はどこから持ってきてるんですか!?」
「ああ、それは私が即興で考えてます」
「即興で???」
今日の田島さんマジで何なの!?!?
もしかして変公にサイボーグに改造されちゃった???
「――では問題です。中世ヨーロッパに開発された拷問器具の一種で、とある果実に形が似ていることから――」
――ピンポーン
「「「――!!」」」
変公早いッ!!?
「フッ、『苦悩の梨』」
「ピンポンピンポン正解です」
マジかよッ!!!
これこんな問題を即興で考えた田島さんも、それを即座に答えた変公も、どっちも頭オカシイ(褒め言葉)だろ!?!?
てか、『苦悩の梨』って、字面がヤバヤバのヤバだな……。
絶対ググらないようにしよう……。
みんなももしググるなら、自己責任でお願いするぜッ!(迫真)
「くぅ! やるっすね峰岸先生!」
「フッ、次はお前の番だ熊谷。好きなジャンルを選ぶがいい」
「じゃあジブンは、『空手』の『10』で!」
まあ、そうなるよね。
「承知いたしました。――では問題です」
田島さんガチで即興で問題作ってるの?
大丈夫? おっぷぁい揉む?(は?)
「極真会館の創立者で――」
――ピンポーン
「「「――!!」」」
熊谷さんも早いッ!!
でもこれは僕でもわかるかも。
「押忍! 答えは『飛鳥拳』!」
えっ!!?
「ピンポンピンポン正解です」
ええええっ!?!?!?
「問題は『極真会館の創立者である大山倍達をモデルにした漫画、空手バカ一代のテレビアニメ版での主人公の名前は?』でした。原作での主人公名はそのまま大山倍達ですが、テレビアニメ版では名前が『飛鳥拳』に変わっているんですね。熊谷さんお見事です」
「押忍! 空手家の中では常識っす!」
いや仮にそうだとしてもよくあの時点でそこまで問題先読み出来たね!?
……意外と熊谷さん、クイズの才能もあるんじゃ?
確かにクイズって野生の勘みたいなものも必要だろうし、空手家と相性は悪くないのかもしれない(そうかな?)。
これは勝負の行方もわからなくなってきたぞ……!
「フッ、やるではないか熊谷。これはモルモットにし甲斐があるというものだ」
「押忍! 恐縮っす!」
恐縮してる場合じゃないよ熊谷さん!?
肘川一(下手したら日本一)ヤヴァい女にロックオンされちゃったんだよ君はッ!!?
そこんとこわかってるッ!!?
「問題の選択権が峰岸先生に移ります。峰岸先生どうぞ」
「フッ、『科学』の『10』にするかな」
「『科学』の『10』ですね。――では問題です。万有引力の法則を発見した――」
――ピンポーン
「「「――!!」」」
またもや変公ッ!!
これも僕でもわかる問題だけど……。
「フッ、『青森県』」
ファッ!?
「ピンポンピンポン正解です」
ファッポリート!?!?!?
「問題は『万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンが、万有引力を思いつくキッカケになったと言われているリンゴですが、リンゴの生産量日本一の県はどこでしょう?』でした。答えは『青森県』。峰岸先生に10点です」
「フッ、科学者にとっては常識だな」
いや日本人なら誰でも常識だよッ!!
てか最早これ科学関係なくないッ!!?
知識云々よりも、いかに田島さんの問題を先読みするかに懸かってる気が……。
「次は熊谷さんの番です。ジャンルをどうぞ」
「押忍! 『鳩尾』の『10』でお願いするっす!」
遂にキタ『鳩尾』。
いったいどんな問題が出てくるのか……?
「――では問題です。子供向けの人気テレビアニメ、『鳩尾エグるよエグチくん』の――」
――ピンポーン
「「「――!!」」」
そんなアニメあったっけ!?!?
「押忍! 答えは『呉服屋』!」
んんんん???
「ピンポンピンポン正解です」
……えぇ(困惑)。
「問題は『子供向けの人気テレビアニメ、『鳩尾エグるよエグチくん』の主人公、ニシヤマくんを演じている声優のモスキートン富岡さんのご実家の家業は?』でした。答えは『呉服屋』。熊谷さんに10点です」
「押忍! 鳩尾ストにとっては常識っす!」
鳩尾ストって何!?!?!?
あと、『鳩尾エグるよエグチくん』ってタイトルなのに、主人公はニシヤマくんなの!?!?
そして田島さんは滅茶苦茶博識だね!!!
その割にはBLが何の略か知らなかったりするけど!
シャーロック・ホームズ並みに知識が偏ってるね!
――そんなこんなでこの一見不毛とも思えるクイズ対決は続き、残すところは『ノンジャンル』の『40』だけとなった(キンクリ)。
現在の点数は両者共に230点の同点。
つまり最後の問題を正解した方の勝利という、お約束の展開である(お約束とか言うな)。
それにしても、『拷問』の『40』の答えは凄かった……。
何だよあのスカフィズムって……。
とても人間の考えたものとは思えない……。
これだけは絶対ググっちゃダメだよみんな!!!
僕は止めたからね!?
苦情は一切受け付けないよ!!(予防線)
「では最後の問題を発表します。お二人共心の準備はよろしいですか?」
「フッ、いつでもこい」
「ま、待ってくださいっす!」
ん?
熊谷さん?
「……相模センパイ、出来れば、『熊谷頑張れ』って言ってもらえないっすか?」
――!!
「ハァ!? な、何だよ急に……。今までも散々応援はしてやっただろ」
「でもここが一番大事なところなんす! センパイの応援があれば、ジブンは空も飛べるはずなんでッ!」
「マジで飛びそうだから怖い!!」
オイオイ、まーーーたイチャイチャしてるよこの二人。
でも、ここは男を見せるところなんじゃないの孝一兄ちゃん?
「……あーもうわかったよ。その代わり絶対勝てよ!」
「押忍! 大山倍達先生に誓ってお約束するっす!!」
「……く、熊谷頑張れ」
「もっと大きな声で!」
「っ!? ……く、熊谷頑張れ!」
「もっともっと!!」
「熊谷頑張れ!!」
「もっともっともーーっと!!!」
「熊谷頑張れッ!!!!」
「もっと愛を込めてッ!!!」
「愛ッ!?!? あんまチョーシに乗んじゃねえッ!!!」
「えへへ、でもありがとうございますっす! これで元気100倍っす!」
「……そうかよ」
甘ーーーーーーい!!!!!(吐血)
――ハッ! マズい!!
こんなところ、微居君に見られたら――!
……おや?
思わず微居君の方に目線を向けると、微居君は絵井君と巨岩を体育祭の大玉転がしみたいにして遊んでいた。
……おぉ。
遂に絵井君の愛が、微居君の氷の心を溶かしたというのか……!
イイハナシダナー。
「では泣いても笑ってもこれが最後の問題です。『ノンジャンル』の『40』の問題、いきます」
「フッ」
「押忍!」
――ゴクリ。
「――では問題です。1+1は――」
――ピンポーン
「「「――!!」」」
――変公!!
「フッ、答えは『将棋電王戦』」
――くっ。
「ブッブー、不正解です」
「何ッ!?」
ええええ!?!?!?
あ、あの変公が、不正解だと……!?
――ピンポーン
「「「――!!!」」」
今度は熊谷さんだ!
「押忍! 答えは『2』っす!」
――!?
「ピンポンピンポン正解です」
「押ーーーーーッ忍!!!!」
えーーーーーーー!?!?!?!?
「問題は『1+1は?』でした。答えはもちろん『2』です」
まさか最後の最後でまんまとは。
「フッ、深読みし過ぎたか。『1+1は2ですが、二条城で2015年に行われたプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトウェアとの非公式棋戦は?』――答えは『将棋電王戦』かと思ったんだがな」
完全に自爆もいいところだな。
策士策に溺れるとはこのことだ。
「この勝負、熊谷さんの勝利です!」
「相模センパイッ!! この勝利を、センパイに捧げるっす!!」
「メッチャ捧げてくるなお前。……まあ、ありがたく受け取っとくよ」
有言実行の女、熊谷強子(デジャブ)。
「――さあ足立さん、どっちが肘北最強の女か、白黒つけようじゃないっすかッ!」
「フハハハハ、よかろう、どこからでもかかってくるがよい」
何でまーちゃんはそんな魔王ムーブかましてるの?
あとこれ、あくまでミスコンだからね?
何かK-1グランプリの決勝戦みたいな雰囲気醸し出してるけど……。
……あ、そういえば微居君夫妻はどうなったかな?
ふと夫妻の方を見ると、夫妻は巨岩の上にレジャーシートを広げ、その上で仲良くサンドイッチを食べていた。
いやむしろ、僕が君達に岩を投げたくなってきたんですけどッ!!?
田島「ところで浅井さん、二条城って何ですか?」
浅井「ファッッ!?!?」




