番外編その23:装獣戯画〔ビーストアート〕③
「篠崎さん、あれ!」
「え?」
勇斗の尊い犠牲で命からがら逃げてきた僕と篠崎さんは、色が異なっている樹の下にアイテムボックスを見つけた。
どうやらアイテムボックスは、色が異なっている樹の下にあるのが法則らしい。
僕はすかさず矢でアイテムボックスを破壊した。
すると、中からスパナみたいな形をしたアイテムが出てきた。
こ、これはッ!
「篠崎さん、これはHPをある程度回復するアイテムだよ! 篠崎さんが取って!」
「え、で、でも……、HPが減ってるのは浅井君もだし……」
「ううん、ここはサポート機能が充実してる篠崎さんが取るべきだよ。僕の代わりは誰でも出来るけど、篠崎さんの代わりはいないんだから」
「でも……」
「美穂、智哉の言う通りだ。これは美穂が取るべきだよ。その代わり、最後までしっかりみんなをサポートしてやってくれ」
「勇斗くん」
勇斗は篠崎さんの肩に手を置きながら、優しく微笑んだ。
それを受けて、篠崎さんは意を決したように唇をギュッと引き結んだ。
「わかった、私頑張る!」
「ああ、頑張れ」
勇斗は篠崎さんの頭をポンポンした。
後にしようか!?
まだ対戦中なんだよ!?
はあぁ~。
マジで今なら微居君と美味い酒が飲める気がする(未成年)。
微居君ちょっとだけ岩貸してくんないかな?
二人で岩でセッションしない?
「あ、結構HP回復したよ、勇斗くん!」
「そうか、よかったな」
よし、これで多少は戦況的にマシになったぞ。
そういえばまーちゃんの方は――
『ヒャッハー! ここにいやがったかあ! ヒャく悟しやがれえ!!』
「「!!」」
が、ホッとしたのも束の間。
公彦の猪に見つかってしまった。
こいつは猪だけあって、足は相当速いらしいな。
だが今なら2対1だ。
一郎と二郎が追い付く前に、何とか倒したいところだが……。
「浅井君、バフかけたよ!」
「っ!」
アルミラージャが杖をかざすと、僕らの機体に『防御力アップ』というメッセージが表示された。
逃げている途中に篠崎さんから聞いた話によると、アルミラージャのバフは常に一種類しかかけられないらしい。
つまりこの状態から更に『攻撃力アップ』を重ねがけは出来ない。
僕的にはここは『攻撃力アップ』で一気に勝負を決めた方がいいと思うのだが、篠崎さんが守りを固めるべきだと判断したなら、それに従おう。
「ありがとう篠崎さん! とにかく無理はせず、『いのちだいじに』をモットーに、何とかここを凌ごう!」
「うん!」
『ヒャッハッハ! そうは問ヒャが卸すかよお! オラァ!!』
「「っ!?」」
公彦の突進を僕はモロに喰らってしまった。
チィ!
こいつ、攻撃は直線的だけど、その分かなり攻撃力が高めに設定されてるみたいだ。
やっぱ防御力にバフかけておいてもらって正解だったみたいだな。
ゲータウロスとアルミラージャはどちらも耐久力はあまりない。
バフがかかってなかったら、耐えきれなかったかもしれない。
「おっまたせー!」
『ヒャッ!?』
「「!!」」
その時だった。
木々を掻き分けながらまーちゃんのカマソーソが颯爽と現れ、公彦の背中を鋭い爪で斬り裂いた。
まーちゃああああん!!!
「そっちはもう大丈夫なの?」
「うん、ある程度分身の数は減らしたから、あとは峰岸先生が任せとけって」
「へえ」
横目で梅先生のスマホを覗くと、ヒャッハーママの分身は、あと2機にまで減っていた。
梅先生は不敵な笑みで、その分身達と対峙している。
よし、これで大分形勢はこちらが有利だ。
『このヒャろおお!!! パパにもぶたれたことないのに!』
お前意外と甘やかされてんだな!?
「ともくん、今ので私、装獣熱が溜まったよ! 私の【翼王の咆哮】で、こいつを屠るから!」
「まーちゃん!?」
ちょいちょい言い回しが物騒だねまーちゃんは!?
でも、確か【翼王の咆哮】は、威力が高い代わりに直線上にしか攻撃範囲がなかったはずだ。
公彦の素早い動きでは、避けられてしまうのでは……。
――そうか!
「まーちゃん! ここは僕に任せて!」
「え? ともくん?」
「オイ公彦! お前のかーちゃんでーべそー」
「ともくん!?」
『ヒャッ!? テ、テメェ!!!』
我ながら古典的な挑発だという自覚はあるが、家族想いなこいつのことだ、きっと引っ掛かるはず。
『うちのママはでべそなんかじゃねえ!!! スッと縦長で小さい、理想の美へそなんだぞ!! 俺はママのへその画像を、スマホの待ち受けにしてんだかんなッ!!』
大分マザコン拗らせてんな!?
興奮し過ぎてヒャハ語も忘れてるし。
『もうお前だけは絶対許さねえ!! さっきので俺も装獣熱が再度溜まった! 俺の【猪突盲信】で、お前をぶっ殺してやる!!!』
公彦が僕に身体を向けてきた。
……よし、来い。
「ともくんッ!!」
「浅井君!」
『【猪突盲信】!!』
公彦が物凄い速さで突進してきた。
僕は構わず正面から公彦に何度も矢を放つ。
だがまだHPに余裕がある公彦は、僕の攻撃くらいではビクともしない。
『ヒャッハー! これで終わりだあああああ!!!』
「いや、終わりなのはお前の方だ」
『ヒャッ!?』
公彦の突進が僕に当たる直前でピタリと止まった。
公彦の機体の影には、僕が放った矢が深々と突き刺さっている。
『ヒャヒャヒャッ!? こ、これは!?』
「――【影縫】だよ」
『ヒャに!?』
「ともくん!」
「浅井君!」
僕の特殊技【影縫】は、矢を相手の影に当てると一定時間行動を封じる効果がある。
実は僕もあと少しで装獣熱が溜まるところだったんだ。
これでまーちゃんの【翼王の咆哮】も、確実に公彦に当てることが出来る。
「まーちゃん! 今だよ!」
「ありがとう、ともくん! 愛してるよッ!」
「っ!」
サラッと告白してくるのはやめてッ!(赤面)
まーちゃんはまた右手で顔を抑えるような仕草をした。
おや? このポーズは……?
「小夜を舞う三対の翼よ、空を斬り裂く尖鋭なる爪よ――」
「「「っ!?」」」
まーちゃん!?
ま、まさかまた!?
「月を背負え、宵闇を統べろ、彼の者を狩り、その燈火を吹き消せ。――絶技【翼王の咆哮】!!!」
「「「っ!?!?!?」」」
まーちゃああああん!!!!!!!
アーイタタタタタタタタタァ……(デジャブ)。
まーちゃんの中二化がとどまることを知らないッ!
『ヒャッ……ヒャッ……、ヒャッハアアアアアアアアア!!!』
カマソーソの合わせた手のひらから放たれた【翼王の咆哮】が、公彦の機体をズタズタに斬り裂いた。
そして公彦を撃墜した旨が、画面に表示されたのであった。
……ふぅ。
何はともあれ、これで数的には4対4のイーブンだな。
『ヒャハッ!? き、公彦おおおおおおお!!!!!』
『ヒャハ彦おおおおおおお!!!!!』
「「「!」」」
が、間髪入れずに一郎と二郎も合流してしまった。
だが一歩遅かったな。
今は3対2でこちらが有利だ。
このままお前らも屠ってやる!(まーちゃんの性格が移ってきた)
……そういえば、ここまでまったくヒャッハーパパが姿を見せてないけど、どこにいるんだろう?
『ぶっ殺す!!! ヒャハ彦の仇だッ!!!』
一郎が息巻いて宣言してきた。
最早名前がヒャハ彦になってるけど、まあいいか……。
「フッ、だが残念だな。死ぬのはお前達の方みたいだぞ?」
『ヒャヒャッ!?』
「「「っ!!」」」
その刹那、二本の大剣を豪快に一郎の亀に叩きつけながら、満を持して梅先生が駆けつけたのであった。
う、梅先生!?
「梅先生、ヒャッハーママは大丈夫なんですか!? それに、一ヶ所に4機が集まると、HPが減っちゃいますよ!」
「フッ、その心配なら無用だ智哉。ホラ、来たぞ?」
「え?」
『ヒャハハハハッ! 逃がさないよお!!!』
『『ママー!』』
「「「!」」」
ヒャッハーママも合流してしまった。
これで数は4対3。
むしろHPが減ってしまう分、こちらが不利なのでは!?
梅先生とヒャッハーママもHPが半分以上減っていることからも、かなりの激戦だったことが窺える。
……ん? HPが半分?
ま、まさか!?
「フッ、その通りだ智哉。今ので私も溜まったんだよ――装獣熱がな!」
「「「!!」」」
『『『ヒャに!?』』』
「……後は頼んだぞ」
――!
梅先生ッ!!
「――【淪滅】!」
『『『ヒャ、ヒャッハアアアアアアアアアア!?!?!?』』』
バルファルトの全身から球状の青白い爆風が辺り一面に広がり、ヒャッハーママ・一郎・二郎の機体を一瞬で消し炭にしてしまった。
な、何て威力だ……。
流石星5。
でも、今ので……。
「フッ、これで残る敵は1機だけだ。お前達三人だけでも、これなら勝てるだろう?」
【淪滅】は自らのHPも半分犠牲にするので、これで梅先生も脱落してしまった。
「……ふん、美味しいところを横取りしないでくださいよ。あのままでもきっと私達は勝ててたのに」
「フッ、そうか」
悪態をついてはいるものの、まーちゃんの雰囲気的に梅先生がファインプレーをしたことは認めているみたいだ。
確かにこれで大分僕らが有利だろう。
――問題は残るヒャッハーパパがどこにいるかということだが。
『――ヒャハハハハハハハ。小童共が、精々今のうちヒャハッておくがいいわ』
「「「!!」」」
――などと思っていた矢先。
王者の風格を漂わせながら、前方からゆっくりとヒャッハーパパの機体がその姿を現したのだった。
――それはライオンを模した機体だった。
ランクは星5。
……くっ、ラスボス登場って訳か。
こちらは3機いるとはいえ満身創痍の状態だ。
しかも相手はおそらく装獣熱が溜まっている。
……これは、むしろこちらの方が不利なのか?
「ともくん、大丈夫だよ」
「っ! まーちゃん?」
まーちゃんは真っ直ぐな瞳で僕を見つめながら、こう言った。
「あなたは死なないわ……。私が守るもの」
「っ!?!?」
みんなロボットアニメの名台詞言いた過ぎじゃない!?
……でも、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ。
収めてみせるぜ、勝利をッ!(倒置法)
未央「『さよをまうさんついのつばさよ』は、みおがかんがえたんだよ」
鐵子「へえ、文才あるね未央は」
樹央「ふふ、将来は小説家かな?」




