番外編その22:装獣戯画〔ビーストアート〕②
今回のバトルフィールドは、巨木が辺り一面に広がっている大森林だった。
樹の一本一本が、装獣戯画の全長を遥かに超えている。
これでは遠くが一切見渡せない。
遠距離攻撃が専門の、僕のゲータウロスは相性が良くないかもな……。
「大森林だああああああヒャッホー!!!」
「まーちゃんそれ言いたいだけでしょ!?」
緊張感持ってよ、もう!
「あれ? 相手チームがボイスチャットを申請してきたよ。面白そうだから受けちゃってもいいよね?」
「えっ!? ま、まーちゃん、それはちょっと!?」
赤の他人とボイスチャットしながら戦うなんて、僕的には大分気まずいんですけど!?
「ポチッとな」
「まーちゃあああああん!!」
まーちゃんは受理ボタンを押してしまった。
ガッデム!!
すると――。
『ヒャッハー!! どこの誰だか知らねーが、残念だったなお前ら! 今から俺達がお前らを、ヒャッハヒャハにしてやんよ!』
『ヒャッハー!!』
『ヒャッハッハー!!』
「っ!?」
こ、この声と喋り方は!?
「あ、この声、あなた達いつぞやの、世紀末ザコ兄弟でしょ?」
『『『ヒャハッ!?』』』
まーちゃんこいつらにそんなあだ名つけてたの!?
まーちゃんてたまに辛辣だよね!?
『ま、まさかお前は、ヒャハ気道女!?……チィ! ここで会ったがヒャハ年目だぜ! パパ! ママ!』
っ!?
パパママ!?!?
『ヒャハハハハハハハ。こいつなのか息子達よ、お前達をあべししたのは?』
『そうなんだよパパ!』
『まったく情けないねえ。ま、可愛い息子達の仇だ。精々痛い目見てもらうよ』
『やっちゃってくれよママー!』
こいつら家族でスマホゲーやってんの!?!?
てか、パパとママて……。
お前らそんなキャラだったのかよ……。
むしろ、平日の昼間から一家揃ってゲームやってて、生活は大丈夫なのか?
「へっへへー、今回も私達が勝っちゃうから、精々頑張ってね世紀末ザコ一家さん」
『『『『『ヒャッハー!!!!!』』』』』
まーちゃん……。
僕の彼女はなんて煽り力が高いんだろう……。
こうしてここに、世紀末ザコ一家との、血で血を洗う争いの幕が切って落とされたのであった(ゲッソリ)。
「フッ、では一ヶ所に固まっているとHPが減ってしまうからな。私と智哉がペアで行動するから、他の三人はあっちを散策してくれ」
「なっ!? 何でともくんとあなたがペアなんですか!? ともくんのペアは私ですッ!」
あわわわわわ。
ついさっき意気投合したと思ったらこれだよ。
どうして仲良く出来ないの!?
「フッ、だが足立、私のバルファルトは星5だ。3機のチームに入ったらバランスが悪くなってしまうぞ?」
「ぐっ」
うむ、それは一理あるな。
戦力のバランスを考えれば、星5の梅先生は2機のチームに入ってもらったほうがいいだろう。
「じゃ、じゃあ、峰岸先生のペアは私が務めます! ともくんとペアを組ませるよりはマシですッ!」
「フッ、仕方ない。今回はそれで譲ってやる」
……まあ、何はともあれ、両者が納得してくれたなら、僕は何でも良いよ。
「よし、そんじゃ俺達はあっちに行ってみようぜ、美穂、智哉」
「うん、勇斗くん!」
「あ、うん」
こうして勇斗・篠崎さん・僕の3人は、西の方角に向かうことにしたのだった。
「おっ、何だあれ?」
「え?」
勇斗の進行方向上に、明らかに他の樹と色が異なっている樹があり、その下に木箱みたいなものが置かれていた。
ああ、あれは――。
「さっきチュートリアルで言ってたじゃないか。あれはアイテムボックスだよ。あの中に各種アイテムがランダムで隠されてるらしいよ」
「ああ、あれがそうなのか。よし、早速いただくぜ」
勇斗のゼノタウロスが木箱を斧で破壊した。
勇斗は昔からゲームの説明書とかも読まないタイプだもんな(因みに僕はちゃんと読んでからやるタイプ)。
「ん? 何だこのアイテム? って、うおっ!」
木箱から出てきたガソリンタンクみたいなアイテムを取ると、ゼノタウロスの装獣熱が瞬時に満タンになった。
「へえ、あれで装獣熱をマックスに出来るのか。悪い美穂、ホントは俺よりも、回復役の美穂に取らせてやるべきだったな」
「ううん、気にしないで。その代わり、何かあったら勇斗くんが私を守ってね」
「ああ、任せてくれ」
……。
相変わらずお安くないなッ!!
ちょっとだけ微居君の気持ちがわかったよ、僕!
『【猪突盲信】!!』
「「「!!」」」
その時だった。
横合いの茂みから突如として、猪みたいな装獣戯画が、衝撃波を纏いながら篠崎さんのアルミラージャに突貫してきた。
あ、危ないッ!
「美穂ッ!」
「っ! ゆ、勇斗くん!」
が、間一髪勇斗が篠崎さんの盾となり、代わりに敵の攻撃を受けたのだった。
とはいえ、今の一撃だけで勇斗のHPは半分近く減ってしまった。
耐久力が低いアルミラージャが喰らっていたら、致命傷だったかもしれない……。
今のが敵の特殊技か!?
勇斗同様、どこかでガソリンタンクのアイテムを拾ってたのか。
『ヒャッハー! よく庇ったな! でもどの道、お前らがヒャハるのは時間の問題だぜえ。一郎兄ちゃん、二郎兄ちゃん、ここにいたぜえ!』
っ!
三男と思われる猪野郎が呼び掛けると、その後ろから亀みたいな装獣戯画と、蛇みたいな装獣戯画が現れた。
3機共星は4だ。
てか、長男が一郎で、次男が二郎って名前なの?
……まあ、いいんだけどさ。
『ヒャッハー! よく見つけたぞ公彦。三人でこいつらをヒャッハヒャハにすんぞ!』
『『ヒャッハー!!』』
三男は公彦なの!?
三郎じゃないの!?
次男と三男の間に、両親にどんな心境の変化があったの!?
『喰らいな、【蛇蝎】!』
「「「っ!」」」
二郎の蛇が、紫色の毒霧みたいなものを僕達に浴びせてきた。
なっ!?
こいつも装獣熱が満タンになってる!?
どういうことだ!?
『ヒャッハッハッハ! 俺達はこのゲームがリリースされて以来、毎日寝る時間以外は、全てこのゲームにヒャハらせてきたからな。アイテムの場所は全てヒャハッてんだよお! 因みに俺の特殊技、【蛇蝎】は、毒霧を浴びたやつ全員の足を暫く遅くする効果があるからなあ。もう逃げらんねえぜえ』
「そんな!?」
そうはそれでどうなの!?
完全にニートなことが確定したじゃん!!
マジで生活どうしてんだこいつら!?
……だが、これはピンチだぞ。
つまり一郎の亀も、装獣熱はマックスってことだ。
見たところタンク系みたいだから、防御寄りの特殊技なのかもしれない。
僕ら三人は火力に乏しいから、このままじゃジリ貧だ。
「ともくん! 今私がそっちに行くから!」
「まーちゃん!?」
で、でも、そしたら4機になって、ペナルティでHPが減っちゃうよ!?
「すぐに全滅させればいいだけの話だよ! そしたら5対2になるから、後は数で圧倒出来るよ」
「あ、うん」
時々まーちゃんがちょっとだけ怖い!
意外と好戦的なところあるよね、まーちゃんって!?
『ヒャハハッ! そーはさせないよ』
「っ!?」
何事かとまーちゃんのスマホの画面を横目で覗くと、カラスみたいな装獣戯画が、まーちゃんと梅先生に襲い掛かってくるところだった。
カラスの星も4。
「フッ、どうやらママさんの登場らしいな」
「くっ! こんな時に!」
『ヒャハハッ! 可愛い息子の仇だよ! 【幻影の羽】!』
「「「!」」」
当然のようにママも装獣熱は満タンだった。
うぬぬ、この、装獣熱の差は相当不利だな……。
ママのカラスは、10機程に分身した。
何だこの技は!?
『ヒャハッ! 【幻影の羽】は本物そっくりの分身を作るのさ。もちろん本物は1機だけだよ。さあ、アタシとヒャハろうじゃないか!』
「もう!」
「フッ、安い挑発に乗るな足立。数ではこちらが有利なんだ。1機ずつ、確実に倒して本物を見つけていけばいい」
「むむむむ!……わかりましたよ。ともくん、すぐ行くから、あと少しだけ粘って!」
「う、うん!」
そうだ。
どのみち僕らがこの三人と互角に戦えなかったら、僕らのチームが勝つ見込みは極めて低いんだ。
せめてまーちゃんが来るまでの時間稼ぎくらいはしてみせる!
「勇斗くん、浅井君、バフはかけたよ!」
「美穂!」
「篠崎さん!」
アルミラージャが杖をかざすと、僕らの機体に『攻撃力アップ』というメッセージが表示された。
これがアルミラージャ固有の能力か!
やっぱ補助役はどのゲームでも必須だよね!
よし、僕も頑張らないと!
「このお!」
僕は先ず一番耐久力が低そうな、二郎の蛇を狙うことにした。
標準を合わせ、弓を引き絞って矢を放つ。
矢は真っ直ぐ蛇に向かって飛んでいった。
やったか!?
『ヒャッハー! 【白金の甲羅】!』
「「「!!」」」
が、僕の矢は蛇の前に立ちはだかった、一郎の亀に受け止められてしまった。
しかもダメージは微々たるものしか与えられていない。
これは!?
『ヒャッハッハ! 俺の【白金の甲羅】は、一定時間防御力を10倍にするんだ。お前らの攻撃なんてヒャでもねえんだよ!』
10倍!?
そんなのほぼ無敵じゃないか!?
『ヒャッヒャッヒャッヒャ! 降参するならヒャまの内だぜえ!』
「くうううッ!」
――それから。
僕らも何とか応戦したものの、攻撃をことごとく亀に防がれ、まともなダメージを与えられずにいた。
それに対して僕らのHPは徐々に削られている。
このままじゃ本当にもたない……!
「……美穂、智哉」
「え?」
「勇斗?」
その時、勇斗が覚悟を宿した瞳で、僕と篠崎さんの顔を交互に見た。
ど、どうしたんだ勇斗!?
「……ここは俺が時間を稼ぐ。その隙にお前らは逃げてくれ」
「勇斗くん!?」
「なっ!? お、お前まさか!」
「――【星の盾】!」
「「っ!!」」
勇斗ッ!?
勇斗のゼノタウロスの身体が眩く輝いた。
「これで一定時間攻撃は俺だけに集中する。今の内に逃げるんだ!」
「そ、そんな……、勇斗くん……」
お前……、死ぬつもりなんだな……。
もう勇斗のゼノタウロスもHPは残り少ない。
いくら防御力が上がっているとはいえ、3機の攻撃を一手に受けて、耐え切れるはずがない。
……くっ!
「嫌ッ! 私は嫌よ、勇斗くんを置いていくなんて!」
「美穂……」
「篠崎さん……」
篠崎さんは今にも泣き出しそうな顔をしている。
……わかる。
君の気持はわかるよ篠崎さん。
僕だって、まーちゃんが勇斗みたいな立場だったとしたら……。
……でも。
「……篠崎さん、行こう」
「っ!……浅井君」
「このままじゃ勇斗が無駄死にになっちゃうよ。勇斗のためにも、ここは一旦退いて、必ず勇斗の仇を僕達が討とう」
「う、うぅ……」
篠崎さんは奥歯を嚙みしめながらも、ゆっくりと頷いた。
勇斗は、「悪いな」とでも言いたげな顔で、僕を見つめていた。
いいってことよ。
『ヒャッハー! こいつを倒したら、次はお前らだからな! ちょっとだけ寿命がヒャハるだけだぜえ!』
ほざいてろ!
今に見てろよッ!
「行こう! 篠崎さん!」
「う、うん!」
「美穂、智哉」
「「っ?」」
何だ、勇斗?
「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ――止まるんじゃねぇぞ……」
「「っ!?!?」」
勇斗ーーーー!?!?!?!?!?
お前それ言いたかっただけだろ!?
僕達の感動を返せ!!
『『『ヒャッハー!!!』』』
「うあああああああああ!!」
僕と篠崎さんが逃げ去る後ろで、勇斗のゼノタウロスの撃墜音が聴こえた。
団長……、いや、勇斗。
お前の無念は、必ず僕らが晴らすからな。
未央「なにやってんだみかぁぁぁぁぁぁっ」
鐵子「おやおや、団長ごっこかい?」
樹央「ふふ、将来は声優さんかな?」




