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番外編その15:スピーチ

「只今ご紹介にあずかりました、足立茉央です。今日はこの場をお借りして、少しだけ昔話をさせてください」


「私が彼氏であるともくんと初めて会ったのは、高校に入学してすぐのことでした」


「私とともくんは、偶然隣の席になったのです」


「正直その時の私は、『イケメンと隣の席になれてラッキー!』くらいにしか思っていませんでした」


「でも、ともくんと一緒に高校生活を過ごすうちに、一つ、また一つとともくんの良いところが見つかっていき、いつの間にか私は寝ても覚めてもともくんのことばかり考えているようになってしまいました」


「今になって思えば、あれは紛れもなく恋でした」


「……そしてあの夏祭りの夜、奇跡は起きました」


「何とともくんは、私に告白してくれたのです!」


「あの瞬間の光景は今でも瞼に焼き付いています」


「ともくんの凛々しい顔」


「緊張した息遣い」


「遠くに聞こえる祭囃子」


「私の人生で最も幸せだった瞬間と言っても過言ではありません」


「私とともくんは晴れて恋人同士となり、デートをしたり、お互いの家に遊びに行ったりしながら、少しずつ愛を深め合っていきました」


「そしてともくんの誕生日でもあったあの日、わたしとともくんは一つに結ばれたのです」


「天にも昇る気持ちというのはああいうのを言うのかもしれません」


「私とともくんは、溶け合って一つになったかのようでした」


「……ですが、これ以降私達に苦難が続くようになります」


「先ず最初に起きた弊害は、あの変態女教師が、あろうことか私のともくんに手を出そうとしたことです!」


「私は真っ向から対立しました」


「そしてあの変態を、完膚なきまでに叩き伏せたのです」


「まあ、私達の愛の力の前には、たとえ異世界の魔王でさえ相手にならないでしょうけどね!」


「……などと思っていたら、本当に異世界に召喚されてしまうとは」


「私とともくんは、ある日突然謎の光に包まれたかと思うと、牧歌的な雰囲気が漂うこことは違う世界にカップル勇者として召喚されてしまったのです!」


「……あれには流石の私達も閉口しました」


「何でも私達の目の前に鎮座していたいかにも偉そうな王様らしき人が言うには、世界を闇に包もうとする魔王を打倒するために私達を召喚したとか」


「しかも魔王を倒すまでは、元の世界には返さないとまで言われました」


「……いやいや、これって普通に犯罪ですよね?」


「ただの誘拐じゃないですかこれ?」


「その上世界を滅ぼそうとする程のヤバい存在を倒しに行けって……」


「竹槍一本で紛争地帯に放り出されるみたいなものですよ?」


「――まあ、倒しましたけどね、魔王」


「その辺の詳細は、このたびの芥川賞受賞作である、『私とともくんがある日突然カップル勇者として異世界に召喚されてしまった件』をお読みください」


「自分で言うのも何ですけど、とっても面白いですよ」


「本日はこのような栄えある賞をいただき、誠に光栄に存じます」


「今後も一作家として、日々精進していく所存です」


「甚だ簡単ではございますが、これにて芥川賞受賞の挨拶に代えさせていただきます」


「ありがとうございました」




「……まーちゃん、何だい今のは?」

「私が将来芥川賞を受賞した時用の、スピーチの練習。どう? それっぽかったでしょ?」

「芥川龍之介に謝って!! 受賞できる訳ないでしょそんな小説が! しかもさも実体験を基にしたみたいな体にしてるし! 異世界に召喚された経験なんてないよね僕達!? あと『カップル勇者』って何!? そもそも受賞スピーチであんな赤裸々に彼氏との馴れ初め言う普通!?!?……嗚呼、ツッコミどころが多過ぎてとても処理しきれない!!!」



「みおがあさいくんとはじめてあったのはー」

「未央ちゃんまで!?」

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