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14-7

「ハハハハハハッ」


 クロノスが天井を見上げて大笑いする。

 他人をバカにする、不愉快な笑い声だった。


「姉さんが父上の跡を継ぐというのかい?」

「なにがおかしいのです」

「いやいや、ごめんごめん。姉さん、ある日いきなり家出したものだから、てっきり当主争いを降りたのかと思ってたよ」


 空になったグラスにメイドがぶどう酒を注ぐ。

 それをすぐさま飲み干すクロノス。


「まあ、別にそれならそれでいいさ」


 クロノスは意外なことを口走った。

 ディアが当主になるのを気にしていない……?

 なら、どうして二つの宝珠を欲しがっているんだ?


「継承順位のとおり、クローディア姉さんがガルディア家を継げばいい」


 ガルディア家を乗っ取るため、兄たちを暗殺した男の言葉とは思えなかった。

 なにか裏がある。


「その代わり、僕にセオソフィーとフィロソフィーを譲ってほしい。そうすれば僕は今後一切、姉さんに危害は加えないと約束するよ。むろん、屋敷を出ていけと言うのなら出ていくさ」


 クロノスは自ら引き下がるというのか……。

 ランフォード家の俺や『稀代の魔術師』のスセリが味方に付いているのを知ったから?

 いや、この狡猾そうな男がそんな簡単に引き下がるはずがない。


「二つの宝珠はガルディア家当主の証です。渡すことはできません」

「違うよ姉さん。それは逆だよ」

「逆……?」

「宝珠を持つ者が当主じゃなくて、当主になる者に宝珠が与えられるんだ。つまり、二つの宝珠を持っていなくてもガルディア家の当主にはなれるってことさ。なんなら父上に聞いてごらん。そんなしきたりはないってすぐにわかるさ」


 ディアは押し黙る。

 スセリが腹をさする。


「クロノス。ワシは腹が減ったのじゃ。メインディッシュはまだかの」

「今大事な話をしてるんだ。黙ってろガキが。おい、こいつにメインディッシュを持ってこい」


 クロノスがそう命じると、スセリの席にだけ肉料理が並べられた。

 スセリはさっそくフォークとナイフを動かして料理を食べだした。

 こんなときに、呆れたご先祖さまだ……。

 プリシラも「あはは……」と苦笑していた。


「まあ、ぶっちゃけるよ。姉さんに暗殺者を差し向けたのは僕だ。兄上たちをまとめて始末したのも認めるさ。そんな姉さんにとって危険な人間である僕が家督争いから身を引こうって言うんだ。となると、姉さんの答えはひとつだろう?」

「……」


 沈黙するディア。

 彼女もクロノスの真意をはかりかねているのだろう。

 家督をディアに譲るとなれば、クロノスが二つの宝珠に固執している理由がますますわからない。


「クロノス。どうしてあなたはそんなにも二つの宝珠が欲しがっているのです」

「大した理由じゃないよ。売ってカネにするだけさ。『ガルディア家の家宝』なら相当な価値になる。貴族や富豪が集う競売でその二つを売って、そのカネでどこか静かな場所でのんびり暮らそうと思っているのさ」

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