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116-1

 兵士たちの顔には冷や汗が垂れている。

 野次馬たちが疑り深げな視線を彼らに浴びせている。

 とうとう耐え切れなくなった兵士たちはこう叫んだ。


「お、おぼえていろ!」


 俺に向かって金の入った袋を投げつけると、二人の兵士は野次馬の輪を割って逃げていった。


「ざまあみろだぜ!」

「やったな兄ちゃん!」

「兵士たちが逃げていったぞ!」


 野次馬たちが拍手喝采を俺に浴びせた。

 俺はそんな彼らに苦笑を見せた。


「これ、お返しします」


 俺は金の入った袋を女性に渡す。


「ありがとうございます! 本当に助かりました……」


 女性の目には涙が浮かんでいた。

 野次馬に混じって遠巻きから見ていたプリシラとスセリが俺のもとに駆け寄ってくる。


「さすがはアッシュさまですっ」

「おぬしは期待を裏切らんのう。もちろん嫌味じゃぞ」


 プリシラは大喜びで、スセリは心底呆れかえっていた。


「それにしてもアッシュさま、兵士がお金をネコババしていたのをよく知ってましたね」

「いや、プリシラよ。こやつはあてずっぽうでそう言ったのじゃ」

「ええーっ!? そうなのですか!?」


 スセリにはおみとおしか。

 彼女の言うとおり、俺ははったりをかましたのだ。

 そもそも徴収している税の額すら俺は知らない。


「彼が国民を守護するべき兵士であると自覚していたなら、あんなひどい仕打ちをするわけないと思ったんだ」

「おぬし、自分の立場をわきまえるのじゃ。今はいち冒険者ではないのじゃぞ。結果はよかったものの……」


 わかっている。自分の今の立場くらい。

 だけど、あの場面を見て見ぬふりをしたら、俺はきっと後悔しただろう。


「わたしはアッシュさまの行為は正しかったと思いますっ」


 プリシラは俺に味方してくれた。


「そんなアッシュさまだからこそ、わたしはアッシュさまのメイドをしているのですっ」


 一人の背の高い男性が俺たちの前にやってきた。


「お前さん、なかなか度胸があるな。その見た目からすると冒険者か? この城下町にもまだお前みたいな勇敢な冒険者が残っていたとはな」

「最近やってきたんです」


 いちおうウソはついていない。


「なら、冒険者さん。もう一つ頼まれごとを聞いてくれないか?」


 背の高い男性の話によると、近頃町の近郊に凶暴な魔物が出没しているという。

 その魔物は他の魔物たちを統率して人間を襲い、町の人たちを困らせているのだった。


 兵士たちは魔物を恐れて知らんぷりを決め込んでいるらしい。

 冒険者ギルドも何度か討伐を試みたがことごとく失敗。

 町民が立ち向かっても同じ結果だった。


「まさかアッシュよ。まだ首をつっ込むつもりか?」

「つっ込ませてくれ」

「つっ込みましょうっ」


 王城に戻った俺たちはさっそく冒険者ギルドを統括する大臣にこの件を伝えた。

 大臣は渡りに船といったようすで討伐を許可してくれた。

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