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115-6

 翌朝、皇帝からの返事を俺たちは受け取った。

 和平の交渉を受け入れる、と。

 まずは一歩進んだ。


 もっとも、この返事は予想できた。

 独立したばかりで力の弱いイス帝国が断固と戦争をするとは思えなかった。

 大国の仲立ちは渡りに船だったのかもしれない。

 


 問題はディアトリア王国だ。


「和平の交渉? なにを言っている。和がディアトリアの地を勝手に奪って帝国を自称する者たちとなにを交渉するというのだ」


 だと思った。

 イス帝国を去ってディアトリア王国にやってきた俺たちは、さっそく国王に取り次いでもらった。

 そしてその返事が今のそれだった。


 政治の腐敗はともかくとして、ディアトリア王国からすればこの件は完全に被害者なのだ。力ずくで取り返すことこそすれ、盗人との折衷案を受け入れる筋合いなどこれっぽっちもないのだ。


「しかし国王陛下。この件にはヴォルカニア王国もひそかにかかっているのは承知でしょう?」


 ヴォルカニア王国は火薬の原料となる硝石を売りつけて一儲け企んでいる。

 硝石のみならず、武器そのものも極秘でイス帝国に売りつけているだろう。

 だとするとディアトリアが力ずくでねじ伏せるのに抵抗し、戦争は泥沼化する。


 ヴォルカニア王国が両国に硝石を売れば戦いが無用に長引く。

 結局、一番得するのがヴォルカニア王国なのだ。


「おぬしらとてよその国が自分たちの争いで儲かるのは面白くあるまい」

「ふむ……」


 ディアトリアの国王が玉座に座ったまま腕組みする。


「もとはといえば身から出た錆。おぬしら上流階級が民をないがしろにしていたから独立が起きたのじゃ。あきらめて交渉の席についてはどうじゃ」

「ぐぬぬ」


 くやしげに歯ぎしりしている。

 キィが言う。


「ディアトリア国王よ。戦争を続けるのはあなたがたも望むところではないだろう。我らグレイス王国が仲立ちをするというのだ。交渉の席に着くべきだ」

「陛下……」


 国王の隣にいた大臣が耳打ちする。

 それから国王は黙って大臣にうなずいた。

 そしてこう俺たちに答えた。


「ここですぐに答えは出せん。他の大臣たちと話し合う必要がある。数日待つがよい。それまでそなららにはしばらくディアトリアに滞在してもらう」

「承知した」


 こうして俺たちはイス帝国のときと同じく、城にそれぞれ個室をあてがわれた。


「ディアトリア王国は交渉してくれるでしょうか……」


 プリシラが心配そうに言う。

 スセリが肩をすくめる。


「断ったらワシらグレイス王国をも敵に回すのじゃ。そのうえヴォルカニア王国までもがこそこそと動いて戦争を長引かせる。嫌とは言えまい」

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