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115-1

 揺れる馬車の中に俺たちはいる。


「善良な魔物もいるのですわね」

「知能や文明が人間に近ければ、道徳を持った魔物がいてもおかしくはないのじゃ」

「アッシュ・ランフォード。あの悪魔たちが善意でエナを保護していたのによく気付いたな」

「あやうくやさしい魔物をやっつけちゃうところでした」


 確信なんてなかった。

 エナにとって一番しあわせであろう可能性を信じたかっただけだ。


「ありがとう。アッシュ・ランフォード。私の幼馴染を救ってくれて。剣でしか解決できない私では決してたどり着けなかった結末だ」


 キィはおじぎした。


「あ、霧が立ち込めてきました」


 馬車の窓の外が白くもやがかかる。

 プリシラの言うとおり霧が立ち込めてきた。

 しかも、霧はどんどん濃くなっていき、あっという間に視界を白に染めてしまった。


「道はだいじょうぶですか?」


 手綱を握る御者に尋ねる。

 イス帝国までは一本道だから、街道から外れなければ問題ないと返事がきた。

 道は一応という程度には舗装されている。霧が濃くても外れることはないだろう。


 馬車は道に沿って走っていく。

 車輪が石に乗り上げてたびたび上下に揺れる。

 窓の外の景色が変わらないのに走っているのに違和感をおぼえてしまう。


「……マリア、がまんできなくなったら言ってくれよ」

「うぇっぷ……」


 馬車酔いに苦しむマリアは今にも嘔吐しそうな形相だった。

 こうなっては端正な顔立ちも台無しだな。


「イス帝国はこのまま国家として独立するのでしょうか?」


 プリシラが疑問を口にする。

 キィが首を横に振る。


「さすがにそれは無理だろう。ただ、自治区としてはさすがに認めざるを得まい。もとはといえばディアトリア王国の政治の腐敗が招いた自業自得だからな。ディアトリア王国にも非はある」

「和平の会談が成功するといいのう」


 スセリがわざわざそう言うからには、これからも次々とじゃまだてがくるに違いない。


 戦争で一儲けしようとするもの。

 あるいは単純に世界の混沌を望むもの。

 さまざまな思惑が絡み合って世の中は複雑に成り立っている。


「そういえばスセリさま。あの特大パフェ、よく完食できましたね」

「ワシに不可能があると思うか?」


 しらじらしい。


「『稀代の魔術師』め。その小さい身体のどこにあのパフェが入ったんだ」

「甘いものは別腹という言葉を知らんのか」


 ドヤっとスセリは自分の腹をさするのだった。


「霧はまだ晴れないな」


 依然として窓の外の景色には濃い霧が立ち込めている。

 今どこにいるのか見当もつかない。

 果たして俺たちはイス帝国に向かって進んでいるのだろうか。

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