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それからエナの屋敷に帰ってきた。
俺とプリシラとマリア、スセリとキィとエナはエナの部屋に集まっていた。
「これで間違いなくエナの両親が偽物とわかったわけだが」
「いつどこで化けの皮をはぐかじゃな」
正体を暴かれてなりふり構わなくなった魔物が屋敷で暴れるのは避けたい。
さもなくば屋敷や使用人たちに被害が及ぶ。
それに、エナの本当の両親の遺体がどこにあるのかも白状させないと。
「適当に理由をつけて外に呼び出し、魔法で捕縛するのはいかが?」
「ひとけのない場所なら私、心当たりがあります」
「食事に毒を盛られたらたまらんから、すぐさま決行じゃな」
俺はそのとき、ある一つの考えが浮かんだ。もう一つの可能性だ。
俺はその可能性をみんなに話し、作戦を決行する前にあることをするよう提案した。
スセリやキィには「お人よしめ」と呆れられたが、プリシラとマリア、エナは賛成してくれた。
それから夜になった。
俺たちは「星がよく見える場所に行こう」とエナの両親に化けた魔物たちをひとけのない場所に連れていった。
町から遠い、街道からも外れたなにもない平地だ。
「お父さん、お母さん。話があるの」
「……」
顔を見合わせる両親。
そして二人ともうなずき合ったあと、思いがけないことを言い出した。
「私たちの正体に気づいたんだね」
「……えっ」
「エナ! そいつらから離れろ!」
キィが剣を抜く。
両親の姿が常温にさらされたアイスのように溶けていく。
輪郭が崩れて再構築されると、人間だった二人の姿は黒い悪魔に変わっていた。
「エナをよくもだましたな!」
「まて、キィ」
今にも魔物たちに斬りかかろうとしたキィを俺は制する。
ようすがおかしい。
魔物たちからは敵意も悪意も感じられず、無防備なまま立っている。
「いつか真実を明かそうと思っていたんだ」
「教えてくれ。エナの両親がどうなったのかを」
「エナのご両親は私たちが看取りました」
エナの両親が結婚記念日の旅行にでかけたとき、悲劇は起きた。
旅行の途中、両親の乗せた馬車が崖から転落した。
その事故に偶然居合わせたのがこの魔物たちだった。
二人の魔物はエナの両親を助けて介抱したが、甲斐なく息を引き取った。
今わの際、両親は二人の魔物にあるお願いをした。
ひとりぼっちになってしまう娘のエナを養ってほしいと。
「私たちはご両親の遺言に従ってエナの成長を見守ることにしました」
「ですが、両親に化けたのは間違いでした。つらい真実であろうと伝えるべきでした。すみませんでした、エナ」
エナはその場に泣き崩れた。
キィは剣を鞘に納め、その手を彼女の肩に回した。
翌日、俺たち五人は町を発ち、イス帝国へ向かって馬車を走らせた。
あれからエナは両親に成り代わった魔物たちと暮らすことに決めたのだった。
魔物たちが自分のことを思って化けていたこと、偽りの暮らしであっても注いでくれた愛情が本物だったということを知ったから。




