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113-7

 翌朝。宿屋をチェックアウトした俺たちは駅へと向かった。

 駅はすでに車庫から出ていて、出発する準備が整っていた。

 プラットホームには乗客がまばらにいる。


 発車の時刻が近づくと車掌が客車のドアを開ける。

 プラットホームで待っていた乗客たちがその中へと次々と吸い込まれていった。

 俺たちもその流れに加わろうとしたのだが――


「お待ちください!」


 声がして振り返ると、そこには走ってきて息切れした女性がいた。

 遅れて幼い少女がその隣に立ち止まる。


 昨日の薬草の採取を依頼してきた少女だ。

 となると、隣にいる女性は母親か。


「あの、冒険者さん。昨日は私のために薬草を取ってきてくださってありがとうございます。どうしても直接お礼がしたくて……」

「ありがとう、冒険者さんっ」


 少女の母親が俺の手のひらになにかを握らせる。

 それは古びたブローチだった。

 古びてはいるが、その精巧な意匠から高価なものであるのが一目でわかる。


「娘は報酬はいらないと言っていたのですが、そんなわけにはいけません」

「いえ、本当に報酬は結構です。無理にお金を取って依頼人がお金に困ったら、せっかく助けた意味がなくなりますから」

「そうだとしても、今回だけはそのブローチを受け取ってください」

「そのブローチ、お父さんの形見なんです。お父さんは探検家で、その幸運のお守りをいつもつけてたんです」

「不運を退けるそのブローチをどうかもらってください」


 そこまで頼まれてしまっては断れない。

 俺は「ありがとうございます」と礼を述べてブローチを胸につけた。

 乗車する。


 プラットホームに響くベル。

 列車が甲高い汽笛を鳴らすと、その重い身体をゆっくりと動かしだした。

 徐々に加速していく。


 俺たちを見送る親子の姿が後ろに流れていき、すぐに見えなくなった。

 列車はイス帝国へ向けてレールの上を走る。


「これっきりだからな」


 キィが言う。


「もう寄り道はさせないぞ」

「ああ。何事もなく役目を果たせればいいな」

「他人事みたいに……」


 彼女は不満げだった。

 キィの気持ちはよくわかる。

 それでも俺は困っている人をほうってはおけない。


 列車での旅は何事もなく続いた――はずだった。

 長い間列車に揺られて俺たちはすっかり寝入っていた。

 静かな車内。


 その車内が突如、耳障りな金属の摩擦音によって破られた。

 列車が激しく揺れる。

 突然の出来事に俺たちは飛び起きた。


「もうイス帝国に着きましたの!?」

「それにしては乱暴なブレーキじゃないか!?」


 窓に映る景色の流れがみるみる遅くなっていく。

 最後にガクンッと大きく揺れて列車は止まった。

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