111-4
王都『街角お姫さま』コンテスト。
――とやらが王都で近日開催されるのだと、宿屋の看板娘フレデリカが言った。
市民のお姫さまと呼ぶにふさわしい女性を決めるコンテストなのだとか。
「フレデリカが出場するのか?」
「まっさかー。アッシュさんは私がお姫さまに見えますー?」
「見える」
「えっ」
きょとんとするフレデリカ。
それから彼女は照れくさそうに頬をかきながら視線をそらした。
看板娘と呼ばれてるだけあり、彼女はじゅうぶんかわいい。自堕落な性格はともかくとして。
「とーにーかーくー、私は出場しませーん。アッシュさん、マリアさんに出てもらったらどうですかー?」
「マリアか」
美人で礼儀作法も完璧なマリアなら、確かにお姫さまにふさわしい。
「そうだな。せっかくだからすすめてみるか」
「がんばってくださいねー。ナイトさま」
「……?」
ナイトさま?
フレデリカの最後のセリフ意味はこのあと判明した。
帰って街角お姫さまコンテストの件をみんなに話した。
「そのコンテストの話なら、わたくしの耳にも入っていますわ。わたくしなら出場してもかまいませんけれど……。アッシュ。もちろんあなたがナイトになってくれますのよね?」
ナイトという言葉がまた出た。
「フレデリカも言ってたけど、『ナイト』ってどういうことだ?」
「お姫さまコンテストには、お姫さまを守るナイト役を連れて出場するルールですのよ」
そうだったのか。
マリアは俺にウインクする。
「当然、わたくしのナイトになってくれますのよね?」
「逆に尋ねるけど、俺でいいのか?」
街角お姫さまコンテストではナイト役も評価の基準になるという。
俺にマリアのナイトが務まるのか。
するとマリアは俺にぐいっと詰め寄ってきた。
「あなたでなければいけませんの」
「あ、ありがとう……」
「というわけで、わたくしとアッシュで――」
「ちょっと待つのじゃ」
スセリが会話に割り込んでくる。
「二人で勝手に決めるのはよくなのじゃ。のう、プリシラよ」
「えっ? あ、あう……」
プリシラがうつむく。
そうか。彼女も出場したがっているのだ。
プリシラはなにか言いたげにもじもじしている。
「アッシュさまにナイトになってもらいたいのは、メイドのわがままでしょうか……?」
いじらしい上目づかいで訴えてくる。
困ったな。
あいにく俺の身体は一つしかない。プリシラとマリアのナイトに同時にはなれない。
「お、いいことを思いついたのじゃ」
困っていると、スセリがそんな不穏なことを言い出した。
なにやらプリシラに耳打ちする。
ふんふんとうなずき、プリシラは「そ、それでだいじょうぶなのでしょうか……」と心配そうに言った。




