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110-4

「あのヘビ人間たちを外の世界に出したら戦争になりますわ! ここでサルヴァークをやっつけますわよっ」


 マリアの言うとおり、ヘビ人間たちが外の世界に出たらオード領は大惨事になる。

 聖杖アルカレイドの守護がなくなったオード領の人々は、サルヴァーク率いるヘビ人間たちの餌食になるだろう。


 とはいえ俺たちは今、囚われの身。

 牢屋自体はなんの変哲もない鉄格子の牢屋で、やろうと思えば魔法で破壊できる。

 しかし、そんなことをした瞬間、大勢の兵士が押し寄せてくるは間違いない。


 こっそり脱走しようにも、見張りはしっかり立っている。

 どうするべきか……。

 少なくとも、おとなしく処刑の瞬間を待つわけにはいかない。


「サルヴァークさま!」


 見張りの兵士が背筋を伸ばして敬礼する。

 白ヘビの人間サルヴァークが俺たちの牢の前に現れた。

 赤くて薄い舌をシュルシュルと動かしている。


「外の世界の人間たちよ。お前たちの住む世界はどんな光景だ。緑豊かな大地か?」

「ああ。みんな平和に暮らしている」

「そうか。それは気の毒だ」


 少しも気の毒そうではない口調だった。


「お前たちの世界でも同じだろう? 住む場所を求めて戦いを繰り返すのは。我々の進撃は正当だ。居場所を求める戦いはすべての生物に許された行為なのだよ」

「なら、抵抗するのも正当な行為だというのも知っているな?」

「むろんだ。剣を手にして立ち向かいたまえ。我々はお前たちと戦う。お前たちは我々と戦うのだ。安寧を賭けて」


 用いる言葉こそ紳士的だが、性格は蛮族そのものだ。

 侵略することでしか居場所を得られない蛮族。


「王さまにかけあって、住む場所を見つけてもらいます!」


 プリシラがそう提案する。

 スセリは肩をすくめる。

 サルヴァークも彼女と同じしぐさをしていた。


「対話ははなから望んではいない。以前、我々も平和的に対話を求めていた。しかし、結果がこれだ。我々は罠にはめられ、この異世界に封じられた。平和的解決など不可能なのだよ」

「そんな……」


 しゅんとうなだれるプリシラ。


「サルヴァークよ。おぬしがこの異世界に封じられたのは、おぬしが持つ邪悪な魔力が原因じゃな?」

「いかにも。どうやら私に秘められた魔力は大地に害を及ぼすらしい」

「ゆえにおぬしは居場所を得られなかった」

「いかにも」

「だから奪うしかないのじゃな」

「いかにもだよ。理解してくれたようだね。我々に対話は不可能だというのが」


 俺はそれでもサルヴァークに説得を試みる。

 この大陸は一つの巨大な王国が支配している。

 圧倒的な軍事力を持つ、王国が動けば、お前たちはひとたまりもない、と。

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