110-3
異世界への扉を抜けた先は異世界の城。
大勢の兵士が俺たちを取り囲んでいる。
異様だったのは、兵士たちの顔。
彼らの頭部はみんな、緑色のヘビの頭をしていた。
ヘビ人間の兵士。
「きさまたち! 『外』からの人間か!」
ヘビ人間の兵士の一人がそう問う。
外という言葉を使うからには、自分たちが『内』の人間だと理解しているわけか。
下手なこと口にしたら危険が及ぶため、ここは素直に肯定した。
「ほう、外からの人間とはな」
そんな男の声が聞こえる。
兵士が横に動き、包囲の一角が割れる。
兵士たちを割って俺たちのところへ歩いてきたのは、やはりヘビ頭の人間だった。
他の者たちと異なるのは、彼の身体が白いこと。
白いヘビ人間だ。
一目で有象無象とわかる兵士の格好をしている他の者たちと違い、彼は上位の士官とわかる立派な衣装を身にまとっていた。
「サルヴァークさま。こいつらをどうしましょう」
兵士は白ヘビの彼をサルヴァークと呼んだ。
「牢に入れておけ。外へ打って出るときに血祭りにあげ、皆の士気を高める」
サルヴァークから邪悪な魔力を感じる。
間違いない。大樹を汚染しているのはこいつだ。
「サルヴァーク。お前たちは何者だ」
「それは侵入者である貴様らにこそ問いたいのだが、いいだろう。我々は『放逐されし者』だ。国同士の戦いで敵国に卑劣な策略にはめられ、この異世界に封じられて星の海に棄てられたのだ」
シュルシュルと薄っぺらい舌を動かしながらサルヴァークはそう言う。
「外からの人間が来たということは、我々は帰ってこれたのか。それとも別の星へとたどり着いたのか……。まあ、どちらでもよい。我々は外へ出て安寧の場所を手に入れる。戦いのときがやってきたのだ」
「そうはさせません! ……ひゃあっ」
一歩前に踏み込んだプシシラだったが、兵士に槍を近づけられて慌てて俺のうしろに隠れた。
ここで戦うには分が悪い。
俺たちはおとなしくサルヴァークに従い、牢に入れられた。
薄暗くて寒く、じめじめした牢屋。
「サルヴァークというやつ、この城丸ごと異世界に封じられたようじゃな」
格子のはめられた窓から見えるのは異様な光景。
コーヒーにミルクを垂らしたような、黒と白が渦巻く不気味な景色だった。
「アッシュよ、どうする。このままではワシら、やつらの侵略戦争の景気づけに殺されてしまうぞ」
スセリ、まるで他人事みたいな言いかただ。
牢に連れてこられるまでに大勢の兵士がいるのが確かめられた。
あいつら全員と戦うにはあまりにも無謀。




