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109-3

 わけのわからない展開に呆然とする俺たち。

 しん、と静まり返る部屋。

 しばらくして……。


「盗まれた!」


 我に返ったグラヴィル伯爵が叫んだ。

 それをきっかけに人々がざわつきだした。


「杖が飛んでっちゃいました!」

「盗まれたんだー! 我が家の家宝がー!」


 盗まれたかどうかは定かではないが、聖杖アルカレイドがどこかへ消え失せてしまったのは確かだった。

 マリアが俺の肩をゆする。


「どういうことですの!? アッシュ!」

「俺にもさっぱりわからない……」

「誰かに魔法で盗まれたのでしょうか……」

「うーん、ワシはそのような魔力は感じなかったがの」


 かわいそうなくらい顔面蒼白のグラヴィル伯爵が俺にすがりついてくる。


「アッシュくん! キミは冒険者だろう!? 聖杖アルカレイドを盗人から取り返してくれ!」

「わかりました。できる手は打ってみます」

「えっ? アッシュ、安請け合いしてよろしいの?」


 マリアが心配そうにそう言う。

 杖を持ち去った者から取り返せるかどうかは置いておくとして、杖のありかはかんたんに見つけられる。魔力を探知すれば。

 あれほどの膨大な魔力を放出しているのだから、すぐに探知できるはずだ。


 目を閉じて精神を集中させる。

 不自然な魔力のありかをさぐる。

 ……あった。


 魔力を感じるのは西からだ。

 グラヴィル伯爵によると、西には妖精の住む森があるとのこと。

 妖精も人間も普段は互いの接触は避けているらしい。


 妖精が盗んだ。

 そう断言するには早いが、関係は大いにあるだろう。


「グラヴィル伯爵。妖精の森を探索する許可をください」

「あ、あの森へ行くのかね……」


 即答してくれるかと思いきや、グラヴィル伯爵はなぜかためらっている。

 後ろめたそうなようすだ。


「グラヴィル伯爵よ。おぬし、聖杖アルカレイドを取り戻したいのなら隠しごとをせずに全部白状するのじゃ」

「……じ、実は」


 はるか昔、オード領はもともと妖精たちの王国だったらしい。

 ところがその自然豊かな大地に目を付けたグラヴィル家が妖精たちを追い出し、自分たちの領土にしてしまった。

 そんな後ろめたい歴史がグラヴィル家にはあったのだった。


「だから、妖精たちは人間を、特にグラヴィル家を嫌っているのだ」

「あたりまえじゃな」

「あのー、もしかしてあの杖ももともとは……」

「定かではないだろうが、妖精たちのものだった可能性が高い」


 思いのほかやっかいな事情だ。

 聖杖アルカレイドがもともとは妖精たちの物だったとしたら、取り返しにいけない。

 逆に俺たち人間が側が糾弾されてしまう。

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