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俺たちは冒険者だから、それとは真逆に、どん欲に泥臭く勝利を手に入れなくてはならないのでは。
……と思っていたのが、今はそんな口論をしている場合ではないので心の中にとどめておいた。
なにより、死んでいるとはいえおとり戦法は俺も気が引ける。
「マリア。魔法で水は出せるか?」
「そんなの、基礎中の基礎ですわよ」
「なら、頼む。機械人形たちを水びたしにしてくれ」
「承知しましたわ」
作戦をみんなに伝える。
そして俺とマリアが機械人形たちの前に躍り出た。
俺は即座に魔法の障壁を展開する。
機械人形たちの銃の一世掃射。
無数の弾丸が半透明の障壁を叩く。
防ぎきれるのは分かっているもの、やはり銃弾を目の前で受け止めるのはぞっとする。
弾切れしたらしい。銃弾の雨がぴたりと止む。
その隙をついてマリアが水の魔法を唱えた。
極太の水鉄砲が発射され、機械人形たちをずぶぬれにする。
「雷よ!」
続けざまに俺が電撃の魔法を放った。
幾重にも折れ曲がり、残像を伴って疾走する雷。
それらは機械人形たちの盾に防がれたが、身体にまとわりついていた水に電気が伝わり、盾による防御を無視して感電させた。
感電した機械人形たちは間接という間接から火花と煙を散らして壊れた。
ふう、倒したか……。
俺は額の汗をぬぐった。
「すごいですね! アッシュさん! 機械人形を倒してしまうだなんて」
アステリア王女がきらきらとした目で俺を見ていた。
「そうです。わたしのアッシュさまはとっても強いんですよ」
あえて『わたしの』の部分を強調してプリシラが胸を張っていた。
「わたくしのアッシュに敗北は許されませんもの」
マリアがそれに対抗する。
二人がにらみ合って視線をバチバチとぶつけ合う。
両者とも好敵手を前にした不敵な笑みを浮かべていた。
「ところで、アステリア王女はここがどういう場所なのか知っているのか?」
ふとした疑問をアステリア王女に投げかける。
「ふえっ!?」
動揺するアステリア王女。
あわあわと取り乱す。
知らないのか……。
「どんな場所かもわからないの冒険しようとしたのか」
「だって、普通の人は『絶対に入ってはいけない場所』に入ってみたくなるでしょう!?」
などと言い訳する。
「おぬし、王女という身分をちゃんと理解しておるのか?」
「反省してます……」
しゅんとうなだれる。
アステリア王女が行方不明になって、当時の王家は大騒ぎだったろう。
「でも、もはやそれも過ぎたことです。前向きに生きていこうと……、あ、もう死んでるのでした」
それ、何回繰り返すつもりだ……。




