107-3
「おーい」
俺は落とし穴に落ちた少女をさがす。
「助けにきたぞー」
実際は罠から逃げ出すためにやむを得ず落ちたのだが、彼女からすれば同じだろう。
「ここですー」
返事がした。
声のする方向に向かう。
しばらく歩くと外周の壁に突き当たる。
そしてその壁に一人の少女がもたれかかっていた。
「うううっ……。ありがとうございます……」
「……」
俺とプリシラとマリアは、理解しがたい事態を前に言葉を失っていた。
少女は泣きべそをかきながら俺たちにお礼を述べている。
……その少女の姿は半透明で、壁が透けて映っていたのだ。
「ちょっ、あなた、なんで身体が透けてますの!?」
いろいろ質問したいことはあったが、まずはマリアがそう尋ねた。
「へ? あ、これですか」
半透明の少女が自分の身体をしげしげと見ながら答える。
「私、幽霊なんです。死んじゃったので」
「……」
だいたい予想したとおりの答えだった。
彼女は『ウルテラの迷宮』の罠に引っかかり、この落とし穴に落ちた。
そして命を落として幽霊になったのだった。
「おぬし、死んでおるのか? なら助けなど求めるでない。まったく」
端末の向こうからスセリの無慈悲な言葉が聞こえてきた。
幽霊の少女はアステリアと名乗った。
なんと彼女は王家の人間で、当時の第二王女だったという。
生きていた当時の年代を聞く限り、今から200年もむかしの人間だった。
「アステリア王女。おてんばなあなたは、絶対に入ってはならないこの『ウルテラの迷宮』に入って、罠にかかって死んでしまったと……」
「はい……。本当におバカです。私ったら」
端末の画面に映る国王陛下は驚きの表情をしている。
「まさか王家の先祖の霊がいたとは……」
「えっと、グレイス王家はまだ続いているのですか?」
「健在だ。我が先祖よ」
「てへへ。よかった」
もしかすると、アステリア王女のような遭難者を出さないために、迷宮の存在は秘匿されたのかもしれない。
「幽霊ならとっくに死んでおるし、放っておいてもよいな」
「ひどいっ! 私を迷宮から出してください!」
アステリア王女は自業自得の末に死んだせいで未練が残っていた。
せめて迷宮の外に出たい。
外に出れば未練が晴れて天国に行けるだろう。
そうアステリア王女は言った。
「私の遺体はあっちのほうにあります」
言われた場所に行くと人骨が落ちていた。
「このペンダントを持っていってください。私の宝物なんです」
俺は遺体からペンダントを取り出す。
これを地上に持ち帰る。
それがアステリア王女からの依頼だった。




