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俺とマリアとプリシラは広間の中央に集まって腰を下ろした。
座った途端、どっと疲労が押し寄せてくる。
迷宮をずっと歩いていたから疲れていたんだな。
「紅茶を用意いたしました」
プリシラがコップを差し出してくる。
コップからは白い湯気が立ち上っていて、紅茶のいい香りがしていた。
紅茶を口に含む。
ちょうどいい温度だ。
古代文明の保温ポットを買ってよかった。
保温ポットは冒険でかなり役立っている。
「マリアさまもどうぞ」
「いただきますわね」
マリアもコップを上品に持って紅茶を味わった。
「クッキーもありますよ」
ランチボックスを開けると、中にはぎっしりクッキーが詰まっていた。
プリシラとベオウルフ、それに宿屋の看板娘のフレデリカで焼いたクッキーだった。
カリッとかじると、口の中にアーモンドの香りが広がった。
「おいしい」
「てへへー」
くすぐったそうに顔をほころばせるプリシラ。
「アッシュさまの将来の妻として恥じないよう、いっしょうけんめい作りました」
「聞き捨てなりませんわね」
マリアが眉をぴくりと動かす。
胸を張り、その胸に手を添えて堂々と言う。
「アッシュの妻になるのはこのわたくしですわ」
しまった。二人の戦いがはじまってしまった。
にこりと笑うマリア。
「ですが、プリシラはわたくしの親友。『二番目の妻』なら構いませんことよ」
「いやですっ」
プリシラにしては珍しく明確に拒否する。
「こればかりは譲れませんっ。わたしが『一番』ですっ」
「いーえ。わたくしが一番ですわ」
「わたしですっ」
「むむむむ……」
ばちばちと二人の視線がぶつかって火花を散らす。
「人気者じゃのう」
端末からひどくのんきな声がした。
「ところで二人とも。この遺跡ってどんな目的で作られたのだと思う?」
「作られた目的ですか」
「お城を守護するためではなくて?」
それは違う。
遺跡は最初からここにあり、それを発見した王家がその上に城を建てたのだ。
古代人はなんらかの目的でこの遺跡を建てたことになる。
「魔王ロッシュローブと戦うためかもしれんの」
遺跡からは外敵を寄せ付けない魔法が発せられている。
旧人類の宿敵である魔王ロッシュローブから守るために作られたのだとスセリは言った。
魔力を吸収しているのは、不足してきた魔力を補うためなのかもしれない。
「皮肉なことじゃな。人類のために作ったものが今、ワシらを困らせているのじゃから」
「さっきの魔物もかわいそうでしたね。人間が作ったこの建物を守るために生み出されたのでしょうから……」
結果的に俺たち人間と戦うことになってしまった。




