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「焦らずじっくりさがしていこう。俺たちも力を貸すから」
と、そこで気がつく。
ベオウルフの試験なのに手を貸してもいいのだろうか。
「ベオウルフ。誰かの助けは借りていいことになってるのか?」
「あ、はい。どんな手段を使っても構わないって最初に言ってましたから」
それから彼女は意外なことを口にする。
「それに、ボクがアッシュお兄さんたちに助けてもらっていることを師匠に教えたら、師匠は『それはとてもいい方法だ』って言ってました」
力を借りていいどころか、むしろ推奨している。
彼女の師匠の意図が読めなくなってきた。
てっきりベオウルフの調査能力を試しているとばかり思っていたが……。
午後。
俺とマリアとベオウルフは今、図書館にいた。
王都の図書館はとても広い。
精霊界にも図書館はあったが、あの広さに匹敵する。
図書館は厳かな雰囲気。
多くの人たちが利用しているにもかかわらず、とても静かだ。
「ありましたか?」
ベオウルフが耳打ちしてくる。
「いいや。ないな」
俺も小声で返事をした。
そこまで声を殺す必要はないのだろうが、雰囲気のせいでどうしてもそうしてしまう。
料理の本と植物の本に的を絞って選んでさがしたものの、ヴァルナなんとかの名前は一言たりとも見つけられなかった。
机には山ほど積まれた本。
どれだけ読み漁っても、ヴァルなんとかは姿かたちも見せなかったのだ。
書架の陰からマリアが現れる。
「わたくしも司書に尋ねましたけれど、やはり『わからない』と答えられましたわ。ヴァルナスティルトゥリヴァ」
「マリアさん、すごいですね。ヴァルナなんとかの名前をそらで言えるなんて」
「わたくしを見くびらないでくださいまし」
ドヤっとするマリア。
別に見くびってはいないぞ。
それから動物の本や神話の本まで調べたが、努力はやはり無駄に終わった。
「アッシュお兄さん。これ」
だいぶ疲れて、座っていたイスにもたれて天井を仰いでいると、ベオウルフが一冊の本を差し出してきた。
「見つかったのか!?」
「いえ、これは物語の本です。面白そうな話なので借りたいのです」
いじらしい上目づかいでベオウルフがねだる。
「この本、アッシュお兄さんが借りてください。ボクはカードを持っていないので」
図書館での閲覧は誰でもできるが、貸し出しにはカードが必要。
そしてカードの発行には少々面倒な手続きがいる。
俺は以前、キルステンさんのすすめでカードを発行した。
「ああ。俺が代わりに借りるよ」
俺が本を受け取ると、ベオウルフはちょっとだけ笑みを浮かべた。




