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104-4

「ベオウルフにとって師匠はどんな人なんだ?」


 俺が質問すると、ベオウルフは少し考えてからこう答えた。


「先生というよりは親のようなものですね。ボクは本当の両親を知らないので。ボクを育ててくれたのは師匠なんです」

「いい人なんだな」

「ええ。とてもいい人です」


 師匠がベオウルフに剣術を教えたのも、きっと自分の身を守らせるためだろう。

 理不尽な暴力を退ける力をベオウルフは持っている。

 少し危ういところがあるが。


「師匠もきっと賛成してくれると思います。アッシュお兄さんと結婚するの」

「ダメーッ!」


 再びプリシラが叫んだ。

 俺の前に立ちはだかり、「あなたには渡さない」と言いたげに両手を広げる。


「アッシュさまは渡さないからね」

「……困ったな。ボクはプリシラと戦いたくないんだ」

「これは避けられない戦いなのっ」


 ま、また話がこっちの方向に……。


「ままならないものだね」


 ベオウルフはため息をついた。



 彼女と別れた俺とプリシラは『シア荘』に帰った。

 そして昼食を作ってみんなで食べた。


「スセリ。ヴァルナスティルトゥリヴァって知ってるか?」


 食後、各々自由にくつろいでいる時間に俺はそう尋ねた。


「なんじゃって?」


 スセリが眉をひそめる。


「ヴァルティ――じゃなかった。ヴァルナスティルトゥリヴァだ」

「それがどういう概念なのか見当もつかんのじゃが……」


 スセリも知らないときたか。

 俺はさきほどのベオウルフとの一件を彼女に話した。


「ベオウルフの師匠はあやつにその珍妙な名前の食材を求めているわけじゃな」

「試験というからにはきっと、なかなかお目にかかれない珍しい食材なんだと思う」

「ふーむ」


 スセリが端末を取り出す。

 そして指でさささっと画面をなでて文字を入力しだした。


「端末の辞書機能の検索にも引っかからんの」


 マリアにも尋ねてみたが、やはり彼女も初めて聞く名前らしかった。


「わたくしにもわかりませんけれど、ベオウルフの師匠は試験としてその食材をさがさせているのでしょう? でしたらきっと、がんばれば見つけだせるものでしょうね」


 そのとおりだ。

 ベオウルフの話からして、彼女の師匠はまともな人だ。

 解けない問題を出すとは思えない。



 数日後、ベオウルフが『シア荘』に遊びにきた。

 彼女を居間に招き、おしゃべりする。

 親友の来訪をうれしがったプリシラは、夢中で彼女と談笑していた。


「あ、そういえばベオ。あのヴァルなんとかって食材は見つかった?」


 ベオウルフは力なく首を横に振った。


「師匠も『こればかりは難しいかもね』って言ってたよ。期間も無期限にしてくれって」

「時間はいくらでもあるわけか」


 それは決してよろこばしい条件とは限らない。

 条件がゆるいということはつまり、試験そのものが困難だという証拠になる。

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