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「スセリもうらやましいだろ」
「いんや、別に」
「あははっ。もっと悔しがれ」
なんだこの違和感は。
それからすぐ、その違和感の正体に気づいてしまった。
セヴリーヌ、俺を連れてケルタスに帰るつもりでいる。
「セヴリーヌ。もしかして、船旅に俺もついていくのか?」
「えっ、違うのか?」
ぽかんとするセヴリーヌ。
どうしてそんな勘違いをしてしまったのだろう。
けど、考えてみれば彼女を一人で帰すのはかわいそうだ。
「違うのか……?」
瞳をうるませている。
俺は首を横に振って否定した。
「違わない。いっしょに船旅を楽しもう」
「だよなっ」
「でも、俺だけじゃないぞ。スセリもプリシラもマリアもいっしょだ」
「えー」
不満げな表情をされてしまった。
「……まあ、しかたないな」
そして渋々うなずいたのだった。
四人分のチケットを追加で購入した。
そういうわけで俺たち五人は今、出航した船にいる。
王都の港はすっかり小さくなってしまった。
甲板には俺たち以外にもちらほら乗客がいる。
俺のとなりにはセヴリーヌ。
上機嫌なようすで大海原を眺めている。
「久しぶりにアッシュに会えてよかった」
「俺もうれしいよ」
「そうなのかっ!?」
ぱあっと顔を輝かせる。
「スセリといるときよりも楽しいか!?」
「そ、それは……」
困った質問だ……。
誰かと誰かを比べることはしたくない。
「同じくらいだ」
「なんだって!」
セヴリーヌがむっと憤慨する。
「あいつと同じだなんて許せん。あいつよりもアッシュにふさわしい人間になってやる。アッシュはアタシになにを望むんだ? なんだってしてやるぞ」
本当に困った……。
「どうすればアッシュの一番になれるんだ? アタシたち親友じゃなかったのか?」
真剣な目つき。
悪い気はしないが、やはり仲間同士を比べるのはよくない。
「相変わらず子供じゃのう」
そんなとき、彼女のとなりにスセリが現れた。
甲板の手すりにもたれて海を眺める。
セヴリーヌがあからさまに敵意をあらわにする。
「じゃまだからあっちにいけ」
「まあ、よいではないか。ワシらは腐れ縁なのじゃから」
邪険にされてもスセリは彼女のとなりから動こうとしない。
「アッシュは呆れるほどお人よしじゃ。こやつにとってはみんなが『一番』なのじゃよ」
「それは『一番』って言わないぞ」
もっともだ。
言い換えればそれは優柔不断。
選ぶべきものを選べていない。
「勘違いしておるようじゃが、必ずしも物事のすべてに優劣をつける必要はないのじゃよ。全部が平等であっても正しいものがあるのじゃ。そのひとつが『友情』じゃ」




