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驚いて周囲をきょろきょろする俺たち。
猟師が銃を撃ったのか。
いや、それにしては銃声の間隔が絶え間なさすぎた。
「ななななんですか!?」
「わからない。気をつけてくれ」
靴下と靴を履く。
「あっ、人間!」
俺たちが周囲を警戒していると、木立の隙間を縫うように小さな生き物がこちらに飛んできた。
人形ほどの極めて小さな人間の少女。
背中には蝶のような薄い羽を生やしている。
妖精だ。
この森の住人なのだろう。
俺たちの前に現れた妖精は顔を青ざめさせている。
「助けて、人間!」
「さっきの銃声と関係があるのか?」
「機械人形が暴れてるの!」
「わかった。俺たちが機械人形を討伐しよう」
「あ、ありがと! こっち!」
妖精に案内されて森のさらに奥へと進む。
そして機械人形がいる場所へと着いた。
「カメ……ですかね」
機械人形はカメに酷似した姿をしていた。
四つ足で、甲羅のようなもので胴体を保護している。
そして甲羅の上にはいかつい銃が据えられていた。
ダダダダッ!
カメ型の機械人形が発砲する。
空に向けられた銃口から銃弾が発射された。
驚いた鳥たちがいっせいに飛び立つ。
「あの機械人形、ずっと昔から死んでるのかと思ってたら、いきなりさっき起きたの」
機械人形の背後にシカが現れる。
すると甲羅の銃がくるりと回転してシカに銃口を向け、連射した。
銃弾の雨を浴びたシカは、一瞬にして撃ち殺されてしまった。
背後から近づくのも危険か。
おそらく全方位に目があるのだろう。
あいつの射程に入った瞬間、ハチの巣になるは間違いない。
俺は考える……。
「プリシラ。接近さえできればあいつを一撃で倒せるか?」
「おまかせくださいっ」
プリシラのロッドならあいつの頭部を破壊できるだろう。
「でも、どうやって近づけば」
「間合いに入った瞬間、銃で撃たれちゃいますねー」
「俺がおとりになる」
一見した限りでは、あの機械人形の武装は甲羅の銃のみ。
俺が側面か背後から近づいて銃の的になっている間にプリシラに攻撃してもらえばいい。
「おとりならわたしがなります!」
「いや、魔法障壁が使える俺のほうが適任だ。まかせてくれ」
「わ、わかりました……」
主人をおとりにするのが気が引けるのだろう。
とはいえこれは誰が適任かの問題だ。
機械人形の間合いに入らないよう、プリシラはかがみながらゆっくりと木々の間を進み、機械人形の正面へと回り込む。
俺は背後に回る。
そして互いの準備が整うと、俺は草むらから躍り出た。
「守護の障壁よ!」
機械人形の銃口がくるりと俺をのほうを向く。
同時に、俺の目の前に半透明の魔法障壁がせり上がる。
ダダダダッ!
銃口から無数の弾丸が発射される。
ガガガガッ!
弾丸は魔法障壁にぶつかって相殺される。
弾丸の雨を浴び続ける障壁に徐々に亀裂が走りだす。
「メイドの一撃ですーっ!」
そこに正面からプリシラが飛び出し、機械人形の頭部をロッドで殴打した。
カメの頭が叩き潰される。
銃弾の雨がぴたりと止む。
カメの全身から力が抜けて動かなくなった。
つぶれた頭部からはバチバチの火花が飛び散っていて黒い煙が立ち昇っていた。
無事、機械人形を討伐した。
「アッシュさま、おケガはありませんか?」
「ああ。プリシラも無事みたいだな」
「アッシュさん、すごいですねー。盾があるといっても銃で撃たれて怖くないんですかー?」
「……正直言うと、めちゃくちゃ怖かった」




