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99-6

 フレデリカは冷蔵庫を開け、中に顔をつっこむ。


「はー、すずしーい」


 みっともない光景だ。

 うら若き乙女がはしたない……。


「王族は部屋全体を冷やしたりあっためたりする機械も持ってるそうですよー。うらやましいですねー」

「いいから顔出せ」


 フレデリカの腰をつかんで冷蔵庫から引っ張り出した。


「涼んでいるところ恐縮ですが、フレデリカさま。スセリさまへのお見舞いのお菓子をください」

「ちょっと待ってねー」


 ……。

 しかし、フレデリカは一向に冷蔵庫からお菓子を出してこない。

 顔をしかめている。


「おかしいなー……」

「どうかしたのか?」

「冷蔵庫に確かにケーキを入れておいたんですけどー」


 フレデリカの肩越しに冷蔵庫の中を覗き見る。

 中にはケーキが一切れあった。


「あるじゃないか」

「あるけどないんです」


 なんだそれは……。

 哲学的なことをフレデリカは言う。

 彼女はケーキの頭を指さす。


「このケーキの上に――ハッ」


 セリフの途中でフレデリカははっと目を見開いた。


「お、思い出しました……」

「フレデリカさま?」

「このケーキの上には本来、野イチゴを乗せるんですけど」

「ないな」


 ケーキの上にはなにも乗っていない。


「ないんです。当然ですよー。昨夜、おなかが減った私が食べちゃったんですからー」

「あはは……。そうだったんですね」


 プリシラが苦笑いした。

 フレデリカは腕組みして「うーん」とうなる。


「困りましたねー。野イチゴを乗せてはじめてこのケーキは完成するんですけどー」

「別になくてもいいぞ。スセリならろくに味わおうともせずに平らげるだろうから」


 自分でもあんまりな言い草だと思う。


「いえいえ、だめですよー。私のプライドが許しません」


 そういうわけで、俺たちは野イチゴを買いに市場へと赴いた。

 ところが今日に限って野イチゴはどの店でも売り切れていたのだ。

 普段は山のように積まれているのに。


「ぐぬぬ……。誰ですか、野イチゴを買い占めたのは……」

「フレデリカさま。お気持ちはうれしいのですが、野イチゴはなくても結構ですよ」

「だめだよプリシラ」


 ぐっとこぶしを握って意気込むフレデリカ。


「摘みにいこう」

「へ……?」

「野イチゴを摘みにいきましょう、二人とも」

「ええーっ!?」


 意地になってる……。


「冒険者のお二人に依頼します。私の野イチゴ摘みに同行してください」


 フレデリカもかしこいな。

 冒険者としての仕事なら俺もプリシラも断れない。


「くだものの乗っていないケーキなんてありえませんからー。だって物足りないじゃないですかー。ケーキの上がまっさらでなにもないなんてー」

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