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98-3

 そうして俺たちは魔王ロッシュローブのたまごから生まれた少女、シュロを連れて元の世界に戻ってきた。


「記憶を持たない魔王か……」


 ブレイクさんもさすがに困った表情をしていた。

 シュロは今、ギルドの別室でプリシラやマリアたちと食事をとっている。

 ギルド長室にいるのはブレイクさんと俺とスセリ、それにイルル。


「ブレイクさん。どうかシュロを罰しないでください」

「安心して。僕は決してシュロを悪いようにはしないから」


 ブレイクさんがさわやかに笑う。

 俺はひとまずほっとする。


「しかし、ブレイクよ。シュロの今後はどうするもつもりじゃ」

「うーん、たまごから生まれた雛は最初に見た者を親と認識するから――」


 ブレイクさんが俺を見る。


「アッシュくんに親になってもらおうかな」

「ええっ!?」

「なんて、冗談だよ」


 冗談か……。

 ブレイクさんてそういうことも言う人なんだな。


 とはいえ、保護者が必要なのなのは間違いないことだ。

 記憶のまっさらなシュロをこの世界に放り出すわけにはいかない。

 となると、孤児院か教会に預けることになるだろうか。


 そんなことを考えていると、ブレイクさんが思いもよらぬことを言いだした。


「ときにイルル。キミはこれからも普通の人間として振舞いつづけられるかい?」

「はい。そのように設計されていますので」

「キミは人間から課せられた使命を終えた。残りの人生、このヴォルクヒルで暮らしていくつもりはないかい?」

「……」


 イルルは目を伏せる。

 人間らしい迷いの表情だ。

 目を開くイルル。


「できるなら、一人の人間として生活していきたいです」

「では、僕がキミに家をあてがおう」

「できるのですか。ありがとうございます」

「ただし、条件がある」


 ブレイクさんが指を二本立てる。


「キミにはその家の家長として、二人の子供の成長を見守って欲しいんだ」

「同居するということでしょうか」

「正確には、家族になってもらう、だね」


 それで俺もスセリもイルルも察した。

 ブレイクさんはシュロをイルルに託すつもりなのだ。

 けど『二人』って言ったが、あとの一人は誰だろう。


「私は母親になるわけですね」

「不服ならお姉ちゃんでもいいよ」

「では、姉で」


 イルルが笑みを浮かべた。

 まんざらでもなさそうだ。


「ブレイクさま、役目を終えた私に生きる意味を与えてくださって感謝いたします」

「おおげさだよ」

「あの、ブレイクさん、俺からもお礼を言わせてください。シュロを保護してくれてありがとうございます」

「困った人を助けるのが冒険者ギルドの役目だからね」

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