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96-1

 それから次の日、街を歩いているとミリアに会った。

 ミリアはしょぼんとうなだれていて、今にも泣きそうだ。

 彼女を遠目から見つけて俺は慌てて駆け寄った。


「どうした? ケガでもしたか?」

「あ、アッシュさん……」


 ぐすっと鼻をすするミリア。

 目に溜まった涙を服の袖でこする。


「なくしちゃったの、わたしの大事なイヤリング」


 イヤリング。

 よく見ると、ミリアはかわいい子供向けのイヤリングをしていた。

 しかし、イヤリングがついているのは片方の耳だけ。


「街中さがしまわってるんだけど、見つからないの」


 耳につけていたのを、気付かないうちに落としてしまったのだろう。

 だとしたら状況は絶望的だ。

 こんな広い街で小さなイヤリングを見つけるなど不可能に近い。


「お姉ちゃんからもらった大事なイヤリングだったのに……。ふえええん!」


 とうとうミリアは声を上げて泣き出してしまった。

 俺はそっと彼女の抱きしめる。

 ミリアは俺の胸で泣きじゃくった。


 家族に捨てられたミリア。

 にもかかわらず、大事にしているイヤリング。

 それをなくしてしまったのだから悲しみは計り知れない。


 彼女を助けてあげられないだろうか。

 俺は考える。

 ……そして、思い至った。


「ミリア、ちょっといいか?」

「……え?」


 ミリアをいったん胸から離す。

 俺は目を閉じて精神を研ぎ澄ます。

 魔書『オーレオール』の魔力を借り、その魔力を手に集中させる。


 頭上に手を掲げて唱えた。


「いでよ!」


 掲げた手の上に魔法円が出現する。

 魔法円の中心から小さな物体が召喚され、手のひらに落ちた。


「ミリアのなくしたイヤリングってこれで合ってるか?」

「あっ!」


 びっくりするミリア。

 それも当然だ。

 俺の手のひらにあるのは小さなイヤリングだったから。


「これだよ! わたしが落としちゃったイヤリング!」

「よかった。召喚成功だな」


 ミリアはイヤリングを手に取った。

 たちまち笑顔になる。


「ありがとう、アッシュさん! どうやって見つけたの?」

「俺は金属ならだいたいなんでも召喚できるんだ」


 ヴォルクヒルの街のどこかに落ちていたのであろうミリアのイヤリングを、手のひらに召喚したのだ。


「すごいね! そんなステキな魔法が使えるんだ!」


 ステキな魔法、か。

 俺は苦笑する。

 かつては『できそこない』呼ばわりされていたのが信じられない。


 俺の『できそこない』の魔法は少女をよろこばせることができたのだ。

 どんな高額な報酬にも代えがたい笑顔だった。


「ありがとう、アッシュさん。お礼しなくちゃね」

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