94-3
「はううう……」
残ったのは俺とプリシラ。
プリシラの手札は二枚。そのうちの一枚が死神。
俺の手札は残り一枚。
つまりこの局面、俺がプリシラから死神ではないほうのカードを引けば勝ちとなる。
この『オールドメイド』というゲーム、ルールの性質上、最後は必ずこうなるのだ。
「負けたらアッシュさまとスセリさまがデートするのを見ることになるなんて、そんなのぜったい耐えられません……」
「俺はそんなことさせないから。三人で遊ぼう」
「アッシュさまはそう言ってくださりますけど、スセリさまは自慢するに決まってます」
「ワ、ワシをなんだと思っておるのじゃ……」
さて、どうするか。
ここはプリシラのために、わざと負けてあげるべきなのだが。
「ちょっとお待ちなさい!」
考えていると、いきなりマリアが声を上げた。
かなり焦っている。
「勝者のスセリさまがアッシュとデートするとして、プリシラが負けたら荷物持ち。実質三人のデートになりますわよね。そうなるとわたくしだけのけものになりませんこと!?」
「そうなるの」
「別にのけものになるわけじゃ」
「中途半端に勝ったわたくしだけ損してますわ!」
た、確かにそうだが……。
ここはなにか妙案を出さないとマリアは納得しないだろうな。
「なら、プリシラが負けたらマリアも荷物持ちを手伝ってくれ。プリシラ一人だとかわいそうだからな」
「まあ、それなら……。承知しましたわ」
納得してくれた。
そういうわけで、勝負に戻る。
プリシラの手札を凝視する。
手札は二枚。
一枚は死神。もう一枚は俺の最後の手札と同じ柄のカード。
手を伸ばし、右のカードを取ろうとする。
プリシラが「はうっ」といった表情をしてしょんぼりする。
しまった。こっちは『当たり』のほうか。
左のカードに手を伸ばす。
今度はプリシラがほっとした表情をする。
ということは、こっちが死神か。
俺は安心して左のカードを手に取った。
引いたカードは――『当たり』だった。
なぜ……。
「アッシュ、上がりじゃな」
「あなた、大人げなくてよ」
「い、いや……」
負けるつもりだったのに上がってしまった。
「プリシラ。なんで俺が死神のカードを取ろうとするとしょぼんとしたんだ?」
「アッシュさまにはやはり勝利していただきたいのがメイドとしての本音でしたから」
笑顔でそう答えるプリシラ。
なんてけなげな。
本当に主人思いのメイドだ。
「これでわたくしとプリシラは荷物持ち。四人全員でデートとなりますわね」
「アッシュ、おぬし、よい身分じゃのう」
結果的に丸く収まったのだった。




