10-1
ヴィットリオさんの手伝いを終えると、俺たちは『夏のクジラ亭』を出て表通りに繰り出した。
向かったのは冒険者ギルド。
場所はクラリッサさんに教えてもらったのですぐ見つかった。
大都市ケルタスに建っているだけあって、ここの冒険者ギルドはアリオトの街やスピカの街と比べてかなり大きな規模を誇っていた。
ギルドは二階建て構造。
一階は受付や依頼掲示板など基本的な機能が備わっていて、二階は冒険者たちが交流できるラウンジになっていた。
規模だけではない。内装も他の街のギルドと比べて洒落ている。
白い壁紙の張られた清潔感のある壁。
窓のそばには観葉植物。
カフェと言われても通じるだろう。
「おっきいですねー」
ギルド一階には大勢の冒険者がいて、受付で依頼を請け負っていたり、掲示板の前でめぼしい依頼をさがしたりしている。冒険者以外にも、依頼人らしき人もいた。
賑わってるな。
これだけの大都市だから、依頼も多いのだろう。
俺とプリシラ、ディアは受付の前へと行く。
「あの、この依頼なんですが」
スピカの冒険者ギルドで請け負った『ガトリングタートルの討伐』依頼書を受付嬢に見せる。
「ああ、この依頼ですね」
笑顔だった受付嬢の表情が曇る。
「この依頼は昨日、他の冒険者さんに解決していただいたのです」
「ええっ!?」
どのあたりに討伐対象がいるのか尋ねようと思ったが、意外な答えが返ってきた。
「そういうわけですので、残念ですが、この依頼書はもう無効になってしまったのです」
「そ、そうですか……」
そうか。他にも依頼を請け負っていた冒険者がいたのか……。
よく考えれば当然だな。他にも競争相手がいるくらい。報酬などの条件が良い依頼ならなおさらだ。
それにしても、がっかりだ……。
依頼書を受付嬢に返し、俺たちは受付から離れた。
「気落ちなさらないでください、アッシュさま」
プリシラが慰めの言葉を俺にかける。
「すみません。わたくしがいなかったら依頼に間に合っていたかもしれません」
とディアが言う。
「いや、ディアと会わなかったところで間に合ってはいなかったろうさ」
終わってしまったことは仕方がない。
失敗なんていくらでもある。
気持ちを切り替えていこう。
「さて、これからのことなんだが――」
「海で泳ぐのじゃっ」
魔書『オーレオール』からスセリが実体化してそう言った。
「う、海ですか?」
「さよう。ケルタスに来たからには海水浴じゃろう」
窓からはケルタスの浜辺が見渡せる。
浜辺では多くの人たちが海水浴をしている。
「セヴリーヌに会わなくていいのか?」
「それは後でいいのじゃ。とにかく海で泳ぐぞ、皆の者」
「いいですねっ。海水浴」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
そういうわけで、スセリの提案により俺たちは浜辺へと足を運んだ。
自分の新しい身体がかかっているというのに随分とのんきなことだ。




