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「ガルアーノ。お前の評判は常々私の耳にも及んでいる」
「光栄の至りであります」
良い意味での評判か、あるいは悪い意味での評判か。
後者だろうな。
「そういうわけだから、王たるこの私がお前の苦労に報いてやらねばと思ってな」
「ありがたきしあわせ」
俺はスセリに耳打ちする。
「どうだ? ガルアーノは魔物なのか?」
「この邪悪な魔力が人間のものだとしたら、並外れた強欲なのじゃ」
「並外れた強欲に見えるんだが、本当にだいじょうぶか?」
「そこまでくどく言われると自信がなくなってきたのじゃが、まあ、なんとかなるじゃろ」
国王陛下が俺たちに目配せする。
いよいよだ。
「お話もよいのですが、ワガハイにくださるという贈り物とはどのようなものでしょう? 陛下」
「今見せてやる。こっちにこい」
手招きされ、スセリが堂々とガルアーノの前に立った。
ガルアーノはふしぎそうに首をかしげる。
「この娘が贈り物ですと?」
「茶番はここまでということなのじゃ」
スセリがガルアーノを指さす。
指先から光が発せられ、光線となってガルアーノの額を射抜く。
「ぐあああああああああッ!」
光線で射抜かれたガルアーノは頭を抱えて苦悶の声を上げた。
おぞましい、貪欲な悪魔が苦しむ声だ。
俺たちを話で囲む人々が困惑してざわつきだす。
ガルアーノの身体から濃い紫色をした煙のようなものが出てくる。
邪悪な魔力だ。俺でもわかる。
濃い紫の煙はガルアーノを覆い隠す。
人の輪郭を保っていたそれが、だんだんと背を高くしていく。
そして煙が晴れると、そこには紫色の肌をした、ずんぐりと太った大きな悪魔がいた。
これがガルアーノの正体……。
「ど、どういうことだ……。ワガハイの正体が……」
「とっくにバレておったのじゃよ」
「ぐう、図ったな……」
パーティーの出席者たちが悲鳴を上げている。
逃げる者もいれば、興味本位なのか遠巻きにようすをうかがっている者もいる。
悪魔と化したガルアーノが憤怒の形相で俺たちを見下ろしている。
「ガルアーノ。さっきも言ったが、お前の『評判』はよく聞いている。庶民から金をむさぼる強欲な商人だとな」
「なにを言う。ワガハイはあくまでお前たち人間の作った法の範囲で儲けていた。それのなにがいけないというのだ」
「法を悪用しておいてその言い草か」
だいいち、ガルアーノが違法な手段で利益を得ていたのは冒険者ギルドの調査であらかじめわかっていたし、証拠もつかんでいる。
横領や恐喝、脱税……。挙げればきりがない。
もはや言い逃れはできない。
「エリンシアのパン屋はお前には渡さない」
「エリンシア……? ああ、あの小娘か。たかが小娘ごときがあんなよい土地に店を持っているなど、宝の持ち腐れというの。ワガハイのほうがはるかに儲けられるのだ」




