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「魔物が人間に化け、人の弱みにつけこんで金や土地を奪っていた。それだけだ」
「は、はいっ」
でも、とエリンシアはうつむく。
「お店を繁盛させられなくて借金をせざるを得ない状況を作ったのは、間違いなく私のせいですから」
「客足が途絶えたのはいつからだ?」
「えっと、2年くらい前からです。急に、ぱったりと」
「急に、か」
だとすると、そもそも客が来なくなったのもガルアーノのしわざである可能性が高い。
一概にエリンシアの力量不足と断じるのは違う。
冒険者ギルドが調査したところ、『ブランシェ』の客足が途絶えた原因がわかった。
2年前、『ブランシェ』の近くに新しくパン屋ができた。
そのパン屋はどう考えても利益が出ないような値段でパンを販売し、客を独り占めしていた。
そのパン屋に出資した人物は――ガルアーノ。
金にまかせて利益が出ない店をむりやり続け、『ブランシェ』に客が行かないように仕向けたのだ。
強引な手段だ。これではエリンシアに勝ち目なんてない。
「アッシュ・ランフォード。ガルアーノの正体を暴け。ヤツが魔物だった場合、討伐するのだ」
ギルド長のキルステンさんにそう命じられた。
「ただし」
キルステンさんは続ける。
「正体を暴くのと討伐は衆目があるところで行え。内密に行えば、ギルドが不都合な人物を暗殺したと疑われかねん」
かつて、王国は圧政を強いていて、国に歯向かうものを暗殺していた。
冒険者ギルドはそんな国の信頼を回復するためにできた組織。
自分たちが正当な行いをしていて、国民のために働いているのだと常に証明する必要があるのだ。
「人々が見ている前で、ガルアーノの正体を暴くのですか。むずかしいですね」
「そもそもガルアーノが魔物であるとまだ断定はできないのでしょう?」
「いや、十中八九、あやつは魔物なのじゃ。それを前提に行動しても問題あるまい」
不自然にガルアーノを人前に呼び出しては、ヤツは俺たちの目的を察してしまう。
ヤツに気づかれぬよう、正体を暴く必要がある。
「舞台は我々ギルドが用意しよう。お前たちはその舞台で演じるのだ」
「どこで演じればよいのじゃ?」
「城だ」
「お城ですか?」
「今度、ちょうどよくパーティーが開かれる。庶民も多く出席するパーティーだ。そこにガルアーノも招待する」
「パーティーの最中に正体を暴けばいいんですね」
「ああ。国にはあらかじめ話を通しておき、必要な事態になったら出席者を守る。お前たちはガルアーノが魔物とわかれば討伐しろ」




