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92-6

 俺たちは冒険者ギルドに印刷所との仲介を頼んだ。

 ところが、予想外の事態が起きた。


「印刷はできない」


 ギルド長のキルステンさんがそう言った。


「どの印刷所もエリンシアの名前を出した途端、印刷を拒否された」

「どうしてですか!?」

「私にもわからん。とにかく王都すべての印刷所がエリンシアとの取引を拒んでいる」


 不可解だ。

 なぜ、エリンシアを名指しで拒否しているのか。


「エリンシア、心当たりはないか?」

「……」


 エリンシアは無言で表情を曇らせる。

 それが答えだった。


「ガルアーノ」


 エリンシアが言葉を出す。

 ガルアーノ? 誰だ?


「たぶん、ガルアーノのしわざです」

「ガルアーノか」


 どうやら合点がいったらしいキルステンさん。


「あの悪徳商人ならやりかねん」


 ガルアーノは平民でありながら大貴族に匹敵する財産を持つ富豪だという。

 ガルアーノは商売のためならどんなに汚い手も使うので有名らしい。

 裏社会の人間を使って商売敵をつぶしたり、力の弱い人間と強引な取引をするのはしょちゅうだとキルステンさんは言った。


「ガルアーノは『ブランシェ』が建っている土地を欲しがっているんです」

「王都の一等地だからな。欲しがるのもふしぎではない」

「私、ガルアーノに借金をしていて」

「借金を返せないと土地をガルアーノに売るはめになる、と」

「です」


 話が見えた。

 ガルアーノは『ブランシェ』が繁盛しないように裏で手をまわしているのだ。

 印刷所の件もそいつのしわざか。


 このままでは借金が返せない。

 ガルアーノに『ブランシェ』の土地を奪われてしまう。


「今思えば、ガルアーノははじめから私に借金を返済させる気はなかったんです」

「最初から土地を奪うのが目的だったわけだな」

「悪い人ですね!」

「キルステンさま。ガルアーノをこらしめられませんの?」

「叩けばホコリは出るだろう。ちょうどいい機会だ。冒険者ギルドから諜報員を送り込んでみよう」

「よろしくおねがいします!」


 ぺこり。

 おじぎをするエリンシア


「ガルアーノの調査はキルステンさんにまかせて、俺たちは他の宣伝の方法を考えよう」

「口コミで評判が広まるのも期待できるのじゃ。あきらめるでないぞ、エリンシア」

「はいっ」

「良いものなら必ず売れるのですっ」


 俺たちは冒険者ギルドを後にして『ブランシェ』に帰ってきた。

 だが、そこではとんでもない事態が発生していた。

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