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「まあ、道理だな」
「そういうわけで、平和的解決を図るのじゃ。よいな?」
風の神と雨の神は顔を見合わせる。
目配せし合ったあと、そろって頷いてこう言った。
「よくねえ。相手をぶっ倒すまで俺は止まらねえぞ」
「男の意地の張り合いに女が割り込んでくるんじゃねえ」
「……あー、だめじゃな、これは」
スセリは呆れた顔をして肩をすくめた。
「さて、続きを始めるか」
「おう」
風の神と雨の神は再び戦いを始めた。
拳と拳のぶつかり合い。
はたから見れば戦いと呼ぶには少々単純すぎる、単なる不良のけんかだった。
再び空が荒れ、雨が降りだし風が荒れだす。
プリシラとマリアが「ひゃーっ」と悲鳴を上げながら傘を開いた。
「けんかはやめろ!」
しかし、俺の言葉は届かない。
どれだけ訴えても二人は戦いをやめなかった。
村長邸に戻って報告する。
「やはりダメでしたか」
最初から期待していなかったのだろう。村長は大して落胆せずにそう言った。
「ううー、どうしましょう」
「けんかが終わるのを待つしかありませんわね」
「しかし、冒険者どの。数年前のうるう年のとき、嵐は三か月続いたと記録にありましたぞ」
「夏が終わってしまいますわ!」
あいつら、三か月も殴り合ってたのか……。
さすが神さまはやることの規模が違う。
極めて迷惑かつ、心底くだらないが。
「アッシュ、なんとかなりませんの?」
「アッシュさまならきっと名案があるに違いありません」
「のじゃじゃじゃ。将来の妻たちがおぬしに期待しておるぞ」
「……実を言うと、なんとかなる気がするんだ」
「なんじゃと!?」
「スセリが驚くのか……」
名案というには平凡すぎる案だが、ないこともなかった。
「村長。グリフォンピーク島にはほかにも神さまはいるのですか?」
「はい。大地の神がいます」
「でしたら、うるう年の余った一日を大地の神さまにまかせてはいかがでしょう」
「ほう!」
村長が驚く。
「第三の神に一日を譲るとは思いつきませんでした!」
「柔軟な発想ですわ、アッシュ」
「さすがアッシュさまですっ」
「単純かつ明快なのじゃ」
照れくさくなって頭をかく。
だ、誰にでも思いつきそうなんだが……。
そもそも、一年の日にちは奇数で、最初から半分にできない。
むしろ、うるう年が来る日だけぴったり半分に分けられるのだ。
ということは、普段は一年の一日だけ、雨の神と風の神以外の神が受け持っているのだろうと俺は考えていた。
その推理は的中した。
村長の話によると、一年の一日だけ大地を司る神が担当し、その日はお祭りが催されるとのこと。
ならばうるう年は二日間、大地の神にまかせればいい。
けんかをしている二柱の神も、一日しか受け持っていなかった大地の神に譲るとなれば納得してくれる……はず。




