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90-2

 両手を上げてよろこびをめいっぱい表現する。

 やっぱりプリシラはメイドというよりも妹だな。

 なんて口にしたら、彼女は怒るかもしれないが。


「アッシュさまは人にものを教えるのもお上手なんですね」

「プリシラの理解力がいいだけだ」

「いえ、そういえばアッシュさま、フレデリカさまの家庭教師もしていましたし、やっぱり先生に向いているのです」


 先生に向いているなんて初めて言われた。


「アッシュよ。おぬし、冒険者の片手間に家庭教師の仕事をしたらどうじゃ?」


 冗談か本気か、スセリがそう提案してくる。


「貴族相手の家庭教師なら、冒険者とは比較にならんほどの月謝がもらえるじゃろうな」

「さすがに貴族の家庭教師はできないだろ」


 今の時代になっても、子供を未だ学校に通わせず家庭教師に任せる貴族は少なくない。

 そうする場合、たいていは名門大学を卒業した人物をあてがう。


 俺なんかでは門前払いだ。

 せいぜいフレデリカに勉強を教えて、お礼にお菓子をもらうくらいがいいところだ。



 翌日も雨が降っていた。

 俺たちはギルド長のキルステンさんに呼ばれて冒険者ギルドにやってきていた。


「す、すみません」


 彼の執務室に入るなり、俺はそう謝った。


「なにに関する謝罪だ?」


 ところがキルステンさんは謝罪される心当たりがないらしく首をかしげた。

 てっきり海の家の経営が芳しくなくて呼び出されたのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「あ、いえ、なんでもありません」

「……? まあいい。今日は緊急の仕事があってお前たちを呼んだのだ」


 キルステンさんが執務机に地図を広げる。

 王都から西方の海に浮かぶ小さな島にボードゲームのコマを置いた。


「アッシュ・ランフォードとその仲間たち。お前たちにはこのグリフォーンピーク島に赴いてもらう」


 グリフォンピーク島。

 そこは王都の面積より少し広いくらいの小さな島。

 人口1000人程度の村が一つあり、ほとんどの大人が漁業や狩猟業を営んでいる。


「魔物討伐ですか?」

「いや、もっとやっかいな手合いだ」


 そこでいったん言葉を切って、もったいぶった間を置いたあと、こう続けた。


「神だ」


 その後、俺たちはグリフォンピーク行きの船に乗った。

 灰色の海は嵐で荒れ、船を激しく揺さぶる。


 プリシラとマリアは不安げな面持ちで窓から海を眺めている。

 スセリはベッドに寝そべって端末でゲームをしている。


「この嵐は神さまのせいだったのですね」

「グリフォンピーク島の神さまたちの争い……。その仲裁、わ、わたくしたちにできるのかしら。……うえっぷ」


 船酔いのひどいマリアが口に手を当てる。

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