表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

625/842

90-1

 雨が降ってもう三日。

 俺たちはもうすっかり海の家をあきらめていた。

 俺とプリシラは窓から雨の降る景色をぼーっと眺めている。


「がんばってカレーを煮込んだんですけど……」

「明日には晴れるさ」


 なんて無責任にはげます。


「アッシュさまがそうおっしゃるのなら、明日は晴れるんですねっ」

「す、すまない! 晴れるかどうかはわからない!」

「そうですか……」


 プリシラはぴんと立てた獣耳をだらんと垂らしてしまった。

 いい加減なことは言うもんじゃないな……。


「チェックメイトなのじゃ」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいまし! 一手戻しますわ!」


 スセリとマリアはボードゲームに興じている。

 じっくり見ているわけじゃないが、たぶん今のところスセリの全勝だ。

 マリアは正々堂々と戦う気高さを持っているが、スセリ相手に真っ向勝負は分が悪すぎる。


「あの、アッシュさま」

「ん? どうした、プリシラ」


 プリシラが上目づかいで俺を見ている。

 欲しいものをねだる子供の目だ。


「も、もしよろしければ、勉強を教えてくれませんか?」

「ああ、よろこんで」


 俺がうなずくと、彼女の顔がぱあっと明るくなった。


「教科は?」

「算数ですっ。教科書持ってきますねっ」


 ぱたぱたと二階に上がっていく。

 そして自室から持ってきたのであろう教科書とノートをテーブルに置いた。


「この教科書、王都の初等学校で配付されているものじゃないか」

「はい。フレデリカさまから譲っていただいたのです」


 俺は内心驚いた。

 プリシラとフレデリカ、そういう仲になっていたのか、と。

 彼女の交友関係が広がりつつあってうれしいかぎりだ。


「ここがわからないので教えていただきたいのです」

「どれどれ」


 プリシラが算数の教科書を開いて俺に渡してくる。

 そのページを見て再びびっくりした。

 そこに載っていた問題は初等学校で教えるには少々難しいものだった。


 12歳の子供ならてこずるのも無理はない。

 都会の児童はこんな難しい問題を解いてるんだな……。


「この問題と解くには、前提としてこのページの公式を使うんだ」

「ふむふむ」


 俺は問題の解き方をプリシラに教えた。

 俺でもわかる問題だったからよかったものの、もっと後ろのページの問題だったら教えるどころか解けるかどうかも怪しかった。


 プリシラがペンを手に取り、ノートに式を書く。

 眉間にしわを寄せながら、ときおり消しゴムで消して書き直しながら。

 苦戦の末、不安げにノートを俺に見せてきた。


「これで合ってますでしょうか……?」

「正解だ」

「よかったですーっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ