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マリアはいじっぱりだな。
「アッシュ。わたくしのかたきをうってくださいまし」
「お、俺か?」
自分を指さす。
マリアは席を立って代わりにそこに座るよう促してくる。
スセリは不敵な笑みを浮かべている。
「ワシは誰であろうと受けて立つのじゃ」
スセリとシャトラで対戦か。
手ごわい相手になりそうだ。
「わかった。手合わせ頼む」
コマを初期配置に並べ直し、俺とスセリの対戦がはじまった。
序盤は互いに素早くコマを進めていく。
最初は互いに定石どおりの動きだ。
とはいえ、相手はスセリ。お手本みたいな戦法を取ってくるとは思えない。
油断せず、しっかり盤面を見ていかないと。
「退屈な動きじゃのう」
スセリがあくびする。
余裕といったようすだ。
「アッシュ。果敢に攻めるのですわよ」
「いや、相手はスセリだ。まずは様子見をしないと」
「先手必勝ですわ!」
俺の隣に座るマリアがいろいろ口をはさんでくる。
き、気が散る……。
「しかたない。ワシから攻めてやるのじゃ」
ついにスセリが動き出した。
戦いに最も向いた騎士のコマを最前線に持ってくる。
俺も防御を固める。
スセリは兵士のコマを次々と前へ出していき、攻勢を強めた。
一般的にシャトラは守りが強いゲームと言われている。
なのにスセリはあえて自分から攻撃に出た。
「ときにアッシュよ」
「うん?」
「いい加減、結婚する相手は決めたのじゃろうな」
「な、なんだよいきなり……」
「単なる雑談なのじゃ」
「アッシュはわたくしと結婚する約束をしていますの」
マリアがドヤ顔で指輪をはめた手を見せびらかしてくる。
「それは恋などろくに知らん幼少のころの約束じゃろう。今はどうじゃ?」
「アッシュ。わたくしを選びますわよね!?」
マリアがすごい形相でにらみつけてくる。
俺はつい目をそらしてしまった。
「そ、それは、スセリの言うとおり、子供のころのことだから……」
「約束に今も昔もありませんわよ!」
「のじゃじゃじゃじゃっ。うかつな約束をしてしまったのう」
そんな雑談をしながら互いにコマを進めていく。
これは冷静さを失わせる スセリの罠だ。
マリアがもじもじしながら言う。
「わ、わたくしはアッシュが妾を持つことには反対しませんわ……。プリシラのことも好きなんでしょう? 親友のプリシラなら、アッシュを愛するのを許せますわ。で、でも、わたくしは正妻の座だけは譲れませんわ」
「いーや。正妻はワシじゃ。マリアは二番手に甘んじるがよい」
「ぜーったい、イヤですわ!」
……しまった。
気がつくと、スセリのコマが俺の陣地のもろい部分に陣取っていた。
これでは俺のコマが身動きが取れない。




