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「まあ、がんばってくれ。応援だけはする」
「他人事みたいな言いかたじゃのう」
「それよりも、いい加減自分の部屋に戻ってくれ。もう寝るから」
「よいのか? こんな美少女が同じ部屋にいるのじゃぞ?」
「おやすみ」
「はいはい。おやすみなのじゃ」
今回は比較的潔く部屋から出ていってくれた。
そして翌日。俺たちは『冬の魔女』ターナの研究所へと案内された。
研究所は村のはずれにある森の中にひっそりとたたずんでいた。
周囲は壁で囲まれており、入り口の門は閉ざされている。
ターナはすでに俺たちが来たのを察知しただろうか。
彼女を慕う村人がすでに教えてしまったかもしれない。
あるいは魔書『オーレオール』の魔力を感じ取ったかも。
だとすると、この先には間違いなく罠が、危険が潜んでいる。
閉ざされた門を引いてみると施錠はされておらず、あっさりと開いた。
敷地内に足を踏み入れる。
新雪をさくさくと踏みしめながら敷地を歩く。
そして研究所の扉の前までたどり着いた。
「あの、よろしいのでしょうか」
プリシラが言う。
「真正面から乗り込むのは危険ではありませんか?」
「なら勝手口からおじゃまするかの」
「それはそれでカッコつかないと思いますわよ」
格好の問題なのか……。
とはいえ、プリシラの言うとおり、馬鹿正直に正面から乗り込んでよいものか。
そんなふうに悩んでいると、スセリがいきなり扉をノックしだした。
「ターナ、おるかー? スセリなのじゃ」
「スセリさま!?」
「闇討ちしにきたわけじゃないのじゃ。まずは話し合いじゃろ?」
「そ、そうですけれど」
スセリは返事を待たずに扉のノブに手をかける。
門のときと同様、扉はあっさりと開いた。
しかし、扉が開くと異様なものが俺たちの目に飛び込んできた。
「なんですか!? これは!」
扉の向こうはコーヒーにミルクを垂らしてかきまぜたような空間が映っていた。
魔法的な仕掛けが施されている。
スセリは臆せずその空間に手を突っ込む。
「これは転移門じゃな」
スセリの腕は肘のあたりまで、ねじれた空間に沈んでいる。
手を引っこ抜いて俺たちのほうを向く。
「この扉は別の空間へと接続されておる」
「どこに続いていますの?」
「入ってからのお楽しみなのじゃ」
俺とマリアとプリシラは「げっ」という表情をした。
さすがにこの先に飛び込むのにはためらってしまう。
転移した先は火山の火口でした、なんてオチだったら一巻の終わりだ。
そうやって扉の前で悩んでいると、頭上から女性の声が響いてきた。
「入ってごらんなさい」
「ターナ!」
遺跡で聞いた声と同じ――ターナの声だ。




