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85-1

「まあ、がんばってくれ。応援だけはする」

「他人事みたいな言いかたじゃのう」

「それよりも、いい加減自分の部屋に戻ってくれ。もう寝るから」

「よいのか? こんな美少女が同じ部屋にいるのじゃぞ?」

「おやすみ」

「はいはい。おやすみなのじゃ」


 今回は比較的潔く部屋から出ていってくれた。



 そして翌日。俺たちは『冬の魔女』ターナの研究所へと案内された。

 研究所は村のはずれにある森の中にひっそりとたたずんでいた。

 周囲は壁で囲まれており、入り口の門は閉ざされている。


 ターナはすでに俺たちが来たのを察知しただろうか。

 彼女を慕う村人がすでに教えてしまったかもしれない。

 あるいは魔書『オーレオール』の魔力を感じ取ったかも。


 だとすると、この先には間違いなく罠が、危険が潜んでいる。

 閉ざされた門を引いてみると施錠はされておらず、あっさりと開いた。

 敷地内に足を踏み入れる。


 新雪をさくさくと踏みしめながら敷地を歩く。

 そして研究所の扉の前までたどり着いた。


「あの、よろしいのでしょうか」


 プリシラが言う。


「真正面から乗り込むのは危険ではありませんか?」

「なら勝手口からおじゃまするかの」

「それはそれでカッコつかないと思いますわよ」


 格好の問題なのか……。

 とはいえ、プリシラの言うとおり、馬鹿正直に正面から乗り込んでよいものか。

 そんなふうに悩んでいると、スセリがいきなり扉をノックしだした。


「ターナ、おるかー? スセリなのじゃ」

「スセリさま!?」

「闇討ちしにきたわけじゃないのじゃ。まずは話し合いじゃろ?」

「そ、そうですけれど」


 スセリは返事を待たずに扉のノブに手をかける。

 門のときと同様、扉はあっさりと開いた。

 しかし、扉が開くと異様なものが俺たちの目に飛び込んできた。


「なんですか!? これは!」


 扉の向こうはコーヒーにミルクを垂らしてかきまぜたような空間が映っていた。

 魔法的な仕掛けが施されている。

 スセリは臆せずその空間に手を突っ込む。


「これは転移門じゃな」


 スセリの腕は肘のあたりまで、ねじれた空間に沈んでいる。

 手を引っこ抜いて俺たちのほうを向く。


「この扉は別の空間へと接続されておる」

「どこに続いていますの?」

「入ってからのお楽しみなのじゃ」


 俺とマリアとプリシラは「げっ」という表情をした。

 さすがにこの先に飛び込むのにはためらってしまう。

 転移した先は火山の火口でした、なんてオチだったら一巻の終わりだ。


 そうやって扉の前で悩んでいると、頭上から女性の声が響いてきた。


「入ってごらんなさい」

「ターナ!」


 遺跡で聞いた声と同じ――ターナの声だ。

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