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82-7

 それから三日後、俺とプリシラと、スセリ、マリアの四人でノースヴェールへと旅立った。

 王都の駅から列車に乗って北へ。


「ステキな眺めですね、アッシュさま」


 がたんごとんと揺れる車内。

 列車が動き出してからというもの、プリシラはずっと窓の外の景色に食い入っている。

 マリアは本を読んでいて、スセリは寝ている。


 車窓から見えるのは広大な麦畑。

 麦の穂が風にそよそよと揺れている。


「今度の旅では雪を見られるのですね。楽しみです」

「プリシラは雪を見たことがないんだったな」

「はい。アッシュさまはあるのですか?」

「いや、俺もないよ。旅行なんて行ったことないからな」

「わたくしはありますわよ」


 うつむいて本を読んでいたマリアが顔を上げて会話に加わってくる。


「雪とはどういうものなのでしょう。本の挿絵だと綿みたいですが」

「氷のように解けてしまう綿ですわ」

「冷たいのですか?」

「冷たいですわよ。ためしに魔法で出してあげますわ」

「だっ、ダメです!」

「あら、どうして?」


 マリアがふしぎそうに首をかしげる。

 プリシラは力いっぱい首を横に振っている。


「本物の雪を見るのはノースヴェールに着いてからの楽しみにとっておきたいのです」

「わかりましたわ。ふふふっ」


 いじらしいな。プリシラは。

 愛くるしいとか、かわいらしいとかいう言葉もよく似合う。

 まるで妹みたいだ。


「ところでアッシュ。あなた、占いに興味はなくて?」


 マリアが唐突に質問してくる。


「いや、ないな」

「はい、失格」


 マリアは指を交差させてバツの字をつくった。

 な、なにが失格なんだ……?

 いきなりの失格宣言に俺はあっけにとられる。


「まったく、アッシュったら。『ない』なんて答えたら、即座に会話が終わってしまいますわよ。ここは『ああ、興味あるよ。愛しいマリアよ』が模範解答といったところですわね」


 愛しいマリア、って……。


「アッシュさま、ご存じなかったのですか? マリアさまは最近、占いに凝っているんです」

「マリアが占うのか?」

「ええ。このカードで」


 マリアはカードの束を取り出して俺に見せてきた。

 カードには数字とさまざまな絵が描かれている。

 車輪、塔、男女、吊るされた人間などなど。


 伏せたカードから一枚選び、その絵柄で未来を占うという。

 けっこう単純だな。


「この旅がうまくいくかどうか、占ってみましょうか?」

「待て。それはやめておいてくれ」


 俺はカードの束をシャッフルしているマリアを止めた。


「この旅は必ず成功させなくちゃいけないんだ。万が一、不吉な結果になったら困るだろ」

「あ、それもそうですね」


 合点がいったプリシラがぽんと手を合わせる。

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